2008年08月07日更新
<莫邦富的視点>中国語ネーミングで中国市場を狙え
●莫 邦富(Mo Bang-Fu): 1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーとなり、話題作には『日本企業がなぜ中国に敗れるのか』『これは私が愛した日本なのか』『新華僑』『日中「アジア・トップ」への条件』などがある。
現在、朝日新聞be(土曜版)にて「mo@china」を連載中。博報堂スーパバイザ。東京経営者協会評議委員。東京メトロポリタンテレビジョン放送番組審議委員。中国山東省青島市開発区顧問。三菱UFJ信託銀行業務顧問。
http://www.mo-office.jp/
「百威」の広告作戦
熱い北京オリンピックがやってきた。眠れぬ夜が続きそうだ。
実は、北京オリンピックはスポーツ選手が競う熱い祭典というだけでなく、今世紀最大の市場となるであろう中国を虎視眈々と見つめる多国籍企業の熱き舞台ともなる。
スポーツの競技場をビジネスの舞台とする作戦の前例はいくらでもある。
2006年の夏のことだ。今年と同じく熱いスポーツの夏だった。ドイツでサッカーワールドカップドイツ大会が開催されていたからだ。しかし、私に感動と衝撃を与えたのは、決勝戦でジダンがイタリアのマテラッツィの胸元に頭突きしたような試合での熾烈なシーンばかりではなかった。テレビ画面に映った米国のビールメーカー、バドワイザーの広告にもそれに負けぬほどの感動と衝撃を受けた。
バドワイザーはワールドカップのオフィシャルスポンサー企業で、1986年のメキシコ大会以来ずっとワールドカップに協賛してきた。試合場に同社の広告が置かれていること自体はしごく自然のことで別に驚かない。しかし、競技場内のすべての広告がアルファベットで社名または商品名をアピールしているなか、バドワイザー一社だけが漢字を出していた。それがバドワイザーの中国語ネーミングである「百威」だ。
バドワイザーはワールドカップ・オフィシャルスポンサーとして、試合場内の広告を通して地元ビールメーカーの強いドイツ市場に殴り込みをかけようとしているだけでなく、遠く離れた13億人の巨大な中国市場にも狙いを定めていた。一人当たりのビール消費量は決して多くない中国だが、2002年から国全体のビール製造量も消費量もアメリカを抜いて世界1位になっている。
バドワイザーがあえて中国語ネーミングの「百威」を前面に出したのは、明らかにテレビ観戦している熱狂的な中国人消費者を狙ってのことだ。
その意味で、今度の北京オリンピックはそれにも増しての広告激戦地となる。
松下電器は中国で漢字戦略を継続
天下の松下電器産業株式会社は、今年10月1日から社名を「パナソニック株式会社」に変更し、国内ブランドも「Panasonic」に統一することになっている。そのため、現在、日本国内の白物家電・住宅設備機器分野などの商品で使用されているNationalブランドは、09年度中を目途に廃止される。
「会社の世界的な発展」を目指す松下が90年間親しんだ社名を捨てるという決断には、「断腸の思い」がある。だが、松下のトップ本人も認めているが、松下のブランド価値は商品の内容と比べて伸びていない。その一因はブランドが『松下』『Panasonic』『National』の3つに分散しており、『松下電器』という名はどうしてもローカルなイメージを伴うことにある。真のグローバル企業への脱皮を狙う決意でもある。だから、社名変更に300億円もの出費も覚悟しているのだ。
しかし中国では、現地統括会社「松下電器(中国)有限公司」の社名は在来のままにした。理由のひとつは、中国ではアルファベットの社名登記が認められていないことだ。そのため、新しい「パナソニック」に発音が近い中国語ネーミングへの変更を検討したが、知名度の高い松下の使用を取りやめた場合の影響の大きさを考え、そのまま在来の社名を継続する方針を決めた。いうまでもなく、漢字の国である中国市場を狙っての例外措置だ。13億人の市場の重みは企業のブランド戦略にもこうした形で影響を及ぼしていると理解していいだろう。
そうした意味で、中国ネーミング開発は中国ビジネスにとって非常に重要な作業のひとつであり、慎重に対応することが求められる。こうした市場ニーズから、中国に進出した日系企業のお役に少しでも立てばと思い、この7月中旬に『中国ビジネスはネーミングで決まる』(平凡社新書)を上梓した。ご一読いただければ幸いである。
著者新刊
中国ビジネスはネーミングで決まる
平凡社新書 428
莫邦富著
価格¥735(税込)
十三億の人口を抱え、各国の企業が熾烈なシェア争いを繰り広げる巨大市場・中国。その消費者の心をつかむにはどうしたらいいか。「三得利」(サントリー)、「馬自達」(マツダ)、「可口可楽」(コカコーラ)など、企業やブランドのネーミングから中国ビジネス成功の鍵を探る。
熱い北京オリンピックがやってきた。眠れぬ夜が続きそうだ。
実は、北京オリンピックはスポーツ選手が競う熱い祭典というだけでなく、今世紀最大の市場となるであろう中国を虎視眈々と見つめる多国籍企業の熱き舞台ともなる。
スポーツの競技場をビジネスの舞台とする作戦の前例はいくらでもある。
2006年の夏のことだ。今年と同じく熱いスポーツの夏だった。ドイツでサッカーワールドカップドイツ大会が開催されていたからだ。しかし、私に感動と衝撃を与えたのは、決勝戦でジダンがイタリアのマテラッツィの胸元に頭突きしたような試合での熾烈なシーンばかりではなかった。テレビ画面に映った米国のビールメーカー、バドワイザーの広告にもそれに負けぬほどの感動と衝撃を受けた。
バドワイザーはワールドカップのオフィシャルスポンサー企業で、1986年のメキシコ大会以来ずっとワールドカップに協賛してきた。試合場に同社の広告が置かれていること自体はしごく自然のことで別に驚かない。しかし、競技場内のすべての広告がアルファベットで社名または商品名をアピールしているなか、バドワイザー一社だけが漢字を出していた。それがバドワイザーの中国語ネーミングである「百威」だ。
バドワイザーはワールドカップ・オフィシャルスポンサーとして、試合場内の広告を通して地元ビールメーカーの強いドイツ市場に殴り込みをかけようとしているだけでなく、遠く離れた13億人の巨大な中国市場にも狙いを定めていた。一人当たりのビール消費量は決して多くない中国だが、2002年から国全体のビール製造量も消費量もアメリカを抜いて世界1位になっている。
バドワイザーがあえて中国語ネーミングの「百威」を前面に出したのは、明らかにテレビ観戦している熱狂的な中国人消費者を狙ってのことだ。
その意味で、今度の北京オリンピックはそれにも増しての広告激戦地となる。
松下電器は中国で漢字戦略を継続
天下の松下電器産業株式会社は、今年10月1日から社名を「パナソニック株式会社」に変更し、国内ブランドも「Panasonic」に統一することになっている。そのため、現在、日本国内の白物家電・住宅設備機器分野などの商品で使用されているNationalブランドは、09年度中を目途に廃止される。
「会社の世界的な発展」を目指す松下が90年間親しんだ社名を捨てるという決断には、「断腸の思い」がある。だが、松下のトップ本人も認めているが、松下のブランド価値は商品の内容と比べて伸びていない。その一因はブランドが『松下』『Panasonic』『National』の3つに分散しており、『松下電器』という名はどうしてもローカルなイメージを伴うことにある。真のグローバル企業への脱皮を狙う決意でもある。だから、社名変更に300億円もの出費も覚悟しているのだ。
しかし中国では、現地統括会社「松下電器(中国)有限公司」の社名は在来のままにした。理由のひとつは、中国ではアルファベットの社名登記が認められていないことだ。そのため、新しい「パナソニック」に発音が近い中国語ネーミングへの変更を検討したが、知名度の高い松下の使用を取りやめた場合の影響の大きさを考え、そのまま在来の社名を継続する方針を決めた。いうまでもなく、漢字の国である中国市場を狙っての例外措置だ。13億人の市場の重みは企業のブランド戦略にもこうした形で影響を及ぼしていると理解していいだろう。
そうした意味で、中国ネーミング開発は中国ビジネスにとって非常に重要な作業のひとつであり、慎重に対応することが求められる。こうした市場ニーズから、中国に進出した日系企業のお役に少しでも立てばと思い、この7月中旬に『中国ビジネスはネーミングで決まる』(平凡社新書)を上梓した。ご一読いただければ幸いである。
著者新刊中国ビジネスはネーミングで決まる
平凡社新書 428
莫邦富著
価格¥735(税込)
十三億の人口を抱え、各国の企業が熾烈なシェア争いを繰り広げる巨大市場・中国。その消費者の心をつかむにはどうしたらいいか。「三得利」(サントリー)、「馬自達」(マツダ)、「可口可楽」(コカコーラ)など、企業やブランドのネーミングから中国ビジネス成功の鍵を探る。
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