2008年07月24日更新
<6月号特集>パターン別承継の成功ポイント/親族内の承継
事業承継計画が完成したら、具体的な対策の実行に移ろう。ここでは「親族内承継」「親族外承継」「M&A」の3パターンについて、それぞれの成功ポイントを解説する。自社の承継方法を想定して、どんな対策が必要になるのかを把握していただきたい。
青山和正(東京富士大学教授)、大山智章(東京商工会議所経営支援部中小企業相談センター副主査)、宮崎健治(企業再建・承継コンサルタント協同組合理事)参考・引用文献:『事業承継ガイドライン20問20答』(中小企業庁)
■親族内承継
ポイント1 関係者の理解
事業承継を行なうには関係者の理解を得ることが重要となる(図1)。特に次の3点に注意する必要がある。(1)後継者候補との意思の疎通、(2)社内や取引先、金融機関への事業承継計画の公表、(3)将来の経営陣の構想を視野に入れて、役員や従業員の世代交代を準備。
(1)は、候補者が複数いる場合、特に注意が必要だ。東京富士大学の青山和正教授は「子供を後継者にしたい場合、親子が本音で話し合う必要があります。高校あるいは大学を卒業した後の進路を決める時がそのチャンスです」とアドバイスする。親子同士で面と向かって話すことに抵抗を感じる人もいるだろうが、必ず通らなければならない道だ。
ポイント2 後継者教育
後継者を選定した後は、社内・社外教育を行ない、来るべき承継の時に備えよう。具体的には次のことに留意したい。
1.社内での教育
(1)営業や財務といった自社の各部門を体験させる。これにより経営の知識とノウハウを習得できる。(2)責任ある地位に就けて権限を委譲し、重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与える。これにより経営に対する自覚が生まれる。(3)経営上のノウハウや業界事情などを現経営者が直接指導する。これにより経営理念の引き継ぎも行なえる。
2.社外での教育
(1)他社での勤務を経験させる。これにより人脈の形成や新しい経営手法を習得でき、自社の枠にとらわれないアイデアを蓄積することもできる。(2)子会社や関連会社がある場合は、一定の実力が備わった段階で、それらの会社の経営を任せてみる。これにより経営者としての責任感を植え付け、資質を確認することもできる。(3)企業経営者の2代目などを対象とした外部機関のセミナーを活用する。これにより経営者に必要とされる知識の修得や、後継者に幅広い視野を持たせることができる。
社内での教育について、青山教授はこう話す。「海外工場の立ち上げなど、後継者に創業者的な経験を積ませることで起業家精神を養えたという事例が数多くあります」また、社外での教育について、企業再建・承継コンサルタント協同組合の宮崎健治理事はこう指摘する。
「他社で働いた後ですぐに自社の経営の中枢を任せるのは得策とはいえません。社員として働くのと経営者としてのノウハウなどを学ぶことはまったく別もの。必ず経営を学ぶ機会を設けることが重要です」
ポイント3 株式、財産の分配
株式・財産の分配は、1.後継者への株式など事業用資産の集中、2.後継者以外の相続人への配慮――の2つの観点から検討する必要がある。
1.後継者への株式など事業用資産の集中
後継者とその友好的な株主へ相当数を集中させることが望ましい。目安として、株主総会で議決権を得るために必要な3分の2以上の株式を集めておきたい。
2.後継者以外の相続人への配慮
生前贈与や遺言を用いる場合でも、ほかの相続人の「遺留分」よる制限がある(表1)。遺留分とは、配偶者や子供たちといった法定相続人に、最低限の資産承継の権利を保障する民法上の制度。遺留分を超えた生前贈与や遺言による財産配分の指定は、遺留分権利者が一定の方法で請求することで効力を失う。

3.生前贈与の活用
生前贈与は、オーナー経営者の生前に権利が確定されるため、後継者への財産移転の方法のなかで最も確実だ。「暦年課税制度」と「相続時清算課税制度」の2つの方法がある。それぞれの概要は表2のとおり。家族構成や財産構成によって、どちらが自社の事業承継にとって有利であるかを判断したい。なお、その際は遺留分の問題に十分に注意する必要がある。
4.遺言の活用
遺言を作成することで、後継者に株式などを集中させることができる。「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があり、特徴は表3のとおり。青山教授は「親族内の事業承継は家族の応援があってこそ成功します。相続が〝争族.にならないように、後継者以外の親族にも十分に配慮しましょう」と指摘する。なお、遺言はいつでも撤回できるため、生前贈与ほど後継者の権利が確実ではない。また、遺留分の問題や有効性をめぐるトラブルが起きることもあるので注意が必要だ。

5.会社法の活用
後継者やその友好的な株主に株式を集中させる方法として、2006年5月1日に施行された「会社法」の各種制度を活用できる。会社法では定款自治が拡大され、企業の選択肢が格段に広がっている。なお、会社法の各種制度を活用するためには、法律や税務上の専門知識が必要になるので、それらの専門家を交えて事前に十分な検討を行なっておく必要がある。各種制度の主なものは次の(1)~(3)のとおり。
(1)株式の集中および分散防止
次のような会社法の方策を用いて、後継者へ株式を集中させるとともに、好ましくない人への株式の分散を防止できる。
●「分散した株式の買い取り」……経営者や後継者個人による買い取りのほか、会社による自社株の取得(金庫株)もできる。
●「株式譲渡制限条項の設置」……会社にとって好ましくない人への株式の譲渡(売却)を制限することができる。
●「相続人に対する売却請求条項の設置」……株式を相続した人が会社にとって好ましくない場合、会社が株式の売り渡し請求を行なうことができる。
(2)種類株式の活用種類株式(議決権や財産などが普通と異なる株式)を用いて、議決権をコントロールすることができる。
●「議決権制限株の発行」……議決権制限株とは、株主総会での特定の議決権が制限された株式。後継者以外には議決権制限株を相続させることで、後継者に議決権を集中させることができる。
●「拒否権付種類株(黄金株)の発行」……拒否権付種類株(黄金株)とは、株主総会の特定の決議事項について拒否権を持つ株式。現経営者が一定の黄金株を保持し、信頼が置けるようになるまで後継者の経営を牽制(けんせい)できる。
(3)会社法を活用するうえでの注意点
●制度活用のための定款変更には、議決権の3分の2以上の賛成が必要。
●株式の取得や売り渡し請求を行なうためには、会社または後継者となる個人に買い取るだけの十分な資金が必要。
●種類株式については、株式発行価格や税務上の評価など、中小企業の実務面でのノウハウの蓄積が不十分な面がある。
専門家からのアドバイス
親族内の承継では税金対策に気を取られがちになるが、いちばん大切なのはきちんと経営を引き継ぐことだ。「節税のためにマンションを建てたもののそれほど効果がなく、『もっと事業に力を入れて、いい状態で会社を承継してやりたかった』と悔やむ経営者もいました」(青山教授)
せっかくの経営施策が本末転倒にならないよう気をつけたい。後継者が「第2の創業」をするような気概を持てるとうまくいきやすい。他方、前経営者を意識するあまり、無理に事業を大きくしようとして失敗した事例もあるので、後継者のバランス感覚も問われるだろう。また後継者は会社を引き継いだ後、なるべく早く中核となるメンバーを作ること大切。「前経営者には自らのリタイアとともに、自分に従ってきた後継者の抵抗勢力となるような古参社員にも引退してもらうなど、後継者が経営を行ないやすくする配慮が求められます」(宮崎理事)
>>特集TOPへ
ポイント1 関係者の理解
事業承継を行なうには関係者の理解を得ることが重要となる(図1)。特に次の3点に注意する必要がある。(1)後継者候補との意思の疎通、(2)社内や取引先、金融機関への事業承継計画の公表、(3)将来の経営陣の構想を視野に入れて、役員や従業員の世代交代を準備。(1)は、候補者が複数いる場合、特に注意が必要だ。東京富士大学の青山和正教授は「子供を後継者にしたい場合、親子が本音で話し合う必要があります。高校あるいは大学を卒業した後の進路を決める時がそのチャンスです」とアドバイスする。親子同士で面と向かって話すことに抵抗を感じる人もいるだろうが、必ず通らなければならない道だ。
ポイント2 後継者教育
後継者を選定した後は、社内・社外教育を行ない、来るべき承継の時に備えよう。具体的には次のことに留意したい。
1.社内での教育
(1)営業や財務といった自社の各部門を体験させる。これにより経営の知識とノウハウを習得できる。(2)責任ある地位に就けて権限を委譲し、重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与える。これにより経営に対する自覚が生まれる。(3)経営上のノウハウや業界事情などを現経営者が直接指導する。これにより経営理念の引き継ぎも行なえる。
2.社外での教育
(1)他社での勤務を経験させる。これにより人脈の形成や新しい経営手法を習得でき、自社の枠にとらわれないアイデアを蓄積することもできる。(2)子会社や関連会社がある場合は、一定の実力が備わった段階で、それらの会社の経営を任せてみる。これにより経営者としての責任感を植え付け、資質を確認することもできる。(3)企業経営者の2代目などを対象とした外部機関のセミナーを活用する。これにより経営者に必要とされる知識の修得や、後継者に幅広い視野を持たせることができる。
社内での教育について、青山教授はこう話す。「海外工場の立ち上げなど、後継者に創業者的な経験を積ませることで起業家精神を養えたという事例が数多くあります」また、社外での教育について、企業再建・承継コンサルタント協同組合の宮崎健治理事はこう指摘する。
「他社で働いた後ですぐに自社の経営の中枢を任せるのは得策とはいえません。社員として働くのと経営者としてのノウハウなどを学ぶことはまったく別もの。必ず経営を学ぶ機会を設けることが重要です」
ポイント3 株式、財産の分配
株式・財産の分配は、1.後継者への株式など事業用資産の集中、2.後継者以外の相続人への配慮――の2つの観点から検討する必要がある。
1.後継者への株式など事業用資産の集中
後継者とその友好的な株主へ相当数を集中させることが望ましい。目安として、株主総会で議決権を得るために必要な3分の2以上の株式を集めておきたい。
2.後継者以外の相続人への配慮
生前贈与や遺言を用いる場合でも、ほかの相続人の「遺留分」よる制限がある(表1)。遺留分とは、配偶者や子供たちといった法定相続人に、最低限の資産承継の権利を保障する民法上の制度。遺留分を超えた生前贈与や遺言による財産配分の指定は、遺留分権利者が一定の方法で請求することで効力を失う。

3.生前贈与の活用
生前贈与は、オーナー経営者の生前に権利が確定されるため、後継者への財産移転の方法のなかで最も確実だ。「暦年課税制度」と「相続時清算課税制度」の2つの方法がある。それぞれの概要は表2のとおり。家族構成や財産構成によって、どちらが自社の事業承継にとって有利であるかを判断したい。なお、その際は遺留分の問題に十分に注意する必要がある。
4.遺言の活用
遺言を作成することで、後継者に株式などを集中させることができる。「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があり、特徴は表3のとおり。青山教授は「親族内の事業承継は家族の応援があってこそ成功します。相続が〝争族.にならないように、後継者以外の親族にも十分に配慮しましょう」と指摘する。なお、遺言はいつでも撤回できるため、生前贈与ほど後継者の権利が確実ではない。また、遺留分の問題や有効性をめぐるトラブルが起きることもあるので注意が必要だ。

5.会社法の活用
後継者やその友好的な株主に株式を集中させる方法として、2006年5月1日に施行された「会社法」の各種制度を活用できる。会社法では定款自治が拡大され、企業の選択肢が格段に広がっている。なお、会社法の各種制度を活用するためには、法律や税務上の専門知識が必要になるので、それらの専門家を交えて事前に十分な検討を行なっておく必要がある。各種制度の主なものは次の(1)~(3)のとおり。
(1)株式の集中および分散防止
次のような会社法の方策を用いて、後継者へ株式を集中させるとともに、好ましくない人への株式の分散を防止できる。
●「分散した株式の買い取り」……経営者や後継者個人による買い取りのほか、会社による自社株の取得(金庫株)もできる。
●「株式譲渡制限条項の設置」……会社にとって好ましくない人への株式の譲渡(売却)を制限することができる。
●「相続人に対する売却請求条項の設置」……株式を相続した人が会社にとって好ましくない場合、会社が株式の売り渡し請求を行なうことができる。
(2)種類株式の活用種類株式(議決権や財産などが普通と異なる株式)を用いて、議決権をコントロールすることができる。
●「議決権制限株の発行」……議決権制限株とは、株主総会での特定の議決権が制限された株式。後継者以外には議決権制限株を相続させることで、後継者に議決権を集中させることができる。
●「拒否権付種類株(黄金株)の発行」……拒否権付種類株(黄金株)とは、株主総会の特定の決議事項について拒否権を持つ株式。現経営者が一定の黄金株を保持し、信頼が置けるようになるまで後継者の経営を牽制(けんせい)できる。
(3)会社法を活用するうえでの注意点
●制度活用のための定款変更には、議決権の3分の2以上の賛成が必要。
●株式の取得や売り渡し請求を行なうためには、会社または後継者となる個人に買い取るだけの十分な資金が必要。
●種類株式については、株式発行価格や税務上の評価など、中小企業の実務面でのノウハウの蓄積が不十分な面がある。
CHECK
遺留分に関する民法の特例で相続紛争を防ぐ
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(案)」が、今年2月に閣議決定された。一定の要件を満たす中小企業者の後継者が、所要の手続きを経ることで遺留分に関する民法の特例の適用を受ける事ができ、相続紛争を未然に防止できる。詳細は経済産業省のウェブサイト(pdf)を参照されたい。
遺留分に関する民法の特例で相続紛争を防ぐ
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(案)」が、今年2月に閣議決定された。一定の要件を満たす中小企業者の後継者が、所要の手続きを経ることで遺留分に関する民法の特例の適用を受ける事ができ、相続紛争を未然に防止できる。詳細は経済産業省のウェブサイト(pdf)を参照されたい。
専門家からのアドバイス
親族内の承継では税金対策に気を取られがちになるが、いちばん大切なのはきちんと経営を引き継ぐことだ。「節税のためにマンションを建てたもののそれほど効果がなく、『もっと事業に力を入れて、いい状態で会社を承継してやりたかった』と悔やむ経営者もいました」(青山教授)
せっかくの経営施策が本末転倒にならないよう気をつけたい。後継者が「第2の創業」をするような気概を持てるとうまくいきやすい。他方、前経営者を意識するあまり、無理に事業を大きくしようとして失敗した事例もあるので、後継者のバランス感覚も問われるだろう。また後継者は会社を引き継いだ後、なるべく早く中核となるメンバーを作ること大切。「前経営者には自らのリタイアとともに、自分に従ってきた後継者の抵抗勢力となるような古参社員にも引退してもらうなど、後継者が経営を行ないやすくする配慮が求められます」(宮崎理事)
成功例1
外部機関で経営を学んだ長男に権限委譲し社内外へ認知を図る
興津貨物自動車運輸(静岡県/運送業)
現会長の遠藤信夫氏は、長男に会社を継いでもらいたいと考えていたものの、はっきりと口にすることはなかった。長男で現社長の遠藤太朗氏は、学業を終えると医療機器商社に入社した。心境に変化が訪れたのは4年くらい前からだ。「父と一緒にお酒を飲むと冗談交じりで『そろそろ帰ってこないか』と言うんです。俺がやらなきゃと感じました」
05年10月、遠藤社長は企業経営を学ぶために中小企業大学校東京校へ入校。「長男が35歳になる11年に承継できればと考えていました」(遠藤会長)。
その気持ちが変わったのは、同校の授業や発表会を見てから。理論的かつ進歩的な内容であり、「自分の時代は終わった」と感じたという。中小企業大学校東京校を卒業し、興津貨物自動車運輸に入社した遠藤社長を待っていたのは「社長をやってみろ」という父からの意外な言葉。それ以来、会長は全権限を社長に委譲し、経営会議にも出席しなくなった。現在、遠藤社長は会社の代表者として社内外に認められている。事業承継成功の秘訣を聞くと、「父がすべてを任せてくれたことです。就任当初は苦労したものの、今ではありがたく感じています」と答えた。
外部機関で経営を学んだ長男に権限委譲し社内外へ認知を図る
興津貨物自動車運輸(静岡県/運送業)
現会長の遠藤信夫氏は、長男に会社を継いでもらいたいと考えていたものの、はっきりと口にすることはなかった。長男で現社長の遠藤太朗氏は、学業を終えると医療機器商社に入社した。心境に変化が訪れたのは4年くらい前からだ。「父と一緒にお酒を飲むと冗談交じりで『そろそろ帰ってこないか』と言うんです。俺がやらなきゃと感じました」
05年10月、遠藤社長は企業経営を学ぶために中小企業大学校東京校へ入校。「長男が35歳になる11年に承継できればと考えていました」(遠藤会長)。
その気持ちが変わったのは、同校の授業や発表会を見てから。理論的かつ進歩的な内容であり、「自分の時代は終わった」と感じたという。中小企業大学校東京校を卒業し、興津貨物自動車運輸に入社した遠藤社長を待っていたのは「社長をやってみろ」という父からの意外な言葉。それ以来、会長は全権限を社長に委譲し、経営会議にも出席しなくなった。現在、遠藤社長は会社の代表者として社内外に認められている。事業承継成功の秘訣を聞くと、「父がすべてを任せてくれたことです。就任当初は苦労したものの、今ではありがたく感じています」と答えた。
>>特集TOPへ
この記事のトラックバックURL
http://ww1.web-vl.com/t512



