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2008年05月29日更新

<ビジネスワイド>食事サロンで高齢化社会の問題に取り組む

高齢者たちの元気を、食を通してサポート
コミュニティー・レストラン「バジクル」


会員制の食事サロンで高齢化社会の問題に取り組む――札幌市北区

「後期高齢者医療制度は、年寄りの切り捨てだ!」などの声があがり、国政の場でもあらためて高齢化社会が招来する問題がクローズアップされつつある。地方ではさらに深刻だ。NPO法人の調査では、北海道でお年寄りの孤独死は年間で2000人にのぼり、うち半数が札幌市内であるという。食の安全を考えてきた生産者、オーガニック・レストラン経営者、町の有志が、お年寄りのために安全な食と交流の場を提供するコミュニティー・レストラン「バジクル」を立ち上げた。


左/店舗概観。右/バジクル店内。会話がはずむよう家庭的な雰囲気としている。居抜き物件の活用などコストを削減し、提供価格をおさえる努力も怠らない

「孤独死をほっておけない」――独居高齢者のサポートの場を!

「きっかけは、高齢者の孤独死の問題です。ひとり暮らしのため、姿が見えないなあと思って、しばらくしたら部屋で亡くなっているのが発見される。このバジクルのあるマンションも築34年で320所帯があるのですが、半分のお宅が65歳以上の住人で、さらにその半分が独居されています。おととし、地元の商店会から話を聞いて、行政にも相談してみたのですが、なかなか策が出てこない。じゃあ、何かやらなくてはってことで…」

NPO法人「バジクール」副理事長の中嶋常雄さんは、こう説明する。札幌市北区のマンションの1階部分、よくある「下駄履き式店舗群」の中にある食事サロン「バジクル」は、ことし1月10日にオープンした。カウンター席8、テーブル席8のごく小さな店舗だが、手を取り合って運営をすすめる人たちの思いは熱い。

「朝早く、高齢者の方が起きてまず行くところは、どこだと思いますか? コンビニエンスストアなんですよ。そこで、パンなどを買って、ささやかな食事にするんです。腹を満たすだけなのが食事であっていいわけがない。せめて、人の顔を見ながら食事をしてほしいということで、食事のできるところを作ろうということになったのです」(中嶋さん)

「バジクル」を立ち上げたメンバーは、都市型農業を考えながら「親子体験農園」を運営するグループ、町内会役員、有機農業に取り組む農家やオーガニック・レストラン経営者(理事長の笛木康雄さん)、タウン誌編集者などさまざま。いろいろな議論をする中で、ともかくひとり暮らしの部屋から出てきてもらって、朝食を含め三食いつでも食べてもらえる場をつくるのが一番ということになったそうだ。運営母体である特定非営利法人「バジクール」の設立趣意書には、次のようにある。

趣旨
高齢化社会の中で、元気に暮らしている地域の人々、特に高齢者たちの元気を、食を通してサポートし、生きがいづくりと交流の場づくりをすすめる。高齢者は、朝が早く、行く場もなく話相手もいない方が多い。そんな方々を中心に、安心安全な食を提供する。

1、 ひとり暮らしや高齢者世帯などで、食生活が不規則になりがちな人々に必要な食事を提供する。
2、 いろいろな趣味を持ちながら仲間がいないという人々の交流の場作りを行なう。
3、 農薬や添加物などを使った食材が多く、健康被害をもたらす可能性のある食材を避け、安全な食材を利用し、安心できる食を提供する。
4、 昔懐かしい味と懐かしいメニューを通して、高齢者たちが関われるスペースを作る。
5、 高齢者も参加できる畑づくり野菜づくりを行なう。

「2月28日には、バジクルを会場に第1回目の交流会をやったのですよ。ゲストに呼んだのは、ソプラノ歌手の清水紫さん。生でオペラの曲が聴けて、参加していただいた方にはその日の特別料理だった「鱈のキムチ鍋」とともに大好評でした。3月27日には、第2回目の交流会は、胡弓の演奏会を行ない、これも大変喜ばれました」(中嶋さん)

バジクルは、朝食、昼食、夕食、さらに晩酌の提供と宅配を行なっている。こうした事業とともに「川柳の会」その他の趣味の会も積極的に開催し、高齢者の語らいと安心の食の場を作り上げようとメンバーたちは考えているようだ。


左/インタビューに答えてくれた中嶋常雄氏。右上/店内の貼り紙。地産地消へのこだわりを掲げる。右下/バジクルの入る、札幌市北区のマンション。1階左にバジクルがある。

食材へのこだわりと会員制のわけ

バジクルのメニューは、値段が手頃で利用しやすい。人気のオリジナルメニューは、煮込みハンバーグ定食600円、鯖の味噌煮定食600円、ナポリタンスパゲッティー600円、晩酌セット850円である(会員の場合、これからさらに150円引き)。
それでいて、食材へのこだわりが、さすがは有機農業に取り組む人たちが関わるだけに半端なものではない。「バジクル通信No.3」から引用すると、次のとおりだ。

バジクルの食材
バジクルのメニュー「煮込みハンバーグ」は、道産の豚肉、道産玉ねぎ、道産人参でハンバーグにし、道産のトマトとトマトジュースでゆっくり煮込んだもので、優しい味が、若い人からお年寄りまで「おいしい」と人気です。

「焼き魚定食」「煮魚定食」に使用する魚は、すべて札幌中央市場で直接仕入れた道産の魚を利用しています。野菜は時期があり、すべてを有機野菜にすることが難しい部分もあり、またすべて道産とも行かないものもありますが、すべて国産で冷凍は使用していません。

「お米」は、道産の有機栽培米を利用しています。お米が美味しいと大変好評をいただいております。ご飯はお代わり自由となっています……。

正に「食の安全」を可能な限り具体化したのが、バジクルのメニューなのだ。

「こうした具体的な形で、地産地消の大事さとか、農業の大切さを生活のなかに持ち込みたいと思ったのです。有機農業というと、何か特別なもののようにいわれがちですが、本来、昔からの農業の原点は有機だったのですから、有機栽培のものを味わってもらうことで食べる人にも意識をもってもらえたらと考えます。有機栽培の野菜は、農家から直接仕入れていますが、食べている人が喜んでくれて、意識をもってくれれば、農家も勇気づけられますしね」(中嶋さん)

料理のおいしさにも定評がある。「ここに来て、“まずい”という人はいたことがありません。みんなに“おいしい”と喜ばれています」(中嶋さん)。近くには、「スローフードでまちづくり」をすすめている飲食街もあるが、そこのお店の人が「バジクルの料理の一部を“お通し”に使いたい」との引き合いもあるそうだ。

バジクルは、一般利用も可能だが、会員制を基本とし、利用者に入会を勧めている。個人会員(年会費3000円)、家族会員(同5000円、家族全員が割引)、法人会員(同8000円、社員全員が割引)の区分があるが、前述のように会員利用は定食もので150円引き、アラカルトメニューでも50円引きの特典がある。

会員制を導入していることの狙いについて、中嶋副理事長は次のように説明する。 「バジクルは、若い人でも高齢者でも、食事をしたい人が誰でも利用できるのですが、あえて会員制をすすめている理由の第一は、設立の動機でもあるひとりぼっちの高齢者をなくしたいということで、高齢者の住居・連絡先の情報をもちたいということです。さらに経営の安定ですね。会社が法人会員になっていただけば、安全な食を社員食堂なみの安い値段で利用していただけます。コスト面で、じゅうぶんやっていける運営になっていますが、もっと利用者の方を増やしたいと思います」

高齢化社会のコミュニティーづくりに新しいモデルとなるか

少子高齢化は、年金や医療制度など長年かかって構築された社会の福祉システムの見直し・再構築を求める状況を生みだしている。こうしたなかで、高齢者を“邪魔者”扱いにするような行き過ぎた動きに対し、社会は敏感になっている。

高齢者が多くなることは、長寿化の反映であり、本来は社会にとって喜ばしいことであるべきなのでは?――そのように発想を転換し、積極的に高齢化に対応した活動や仕事を創出していくことこそ、必要なのではないだろうか。高齢者医療と年金問題の根本は、若年者の減少と経済社会の低迷・混乱であり、今日の日本を高度に発展した技術・経済大国にするうえで貢献してきた現在の高齢者に大きな責任があるのではない。

バジクルは、「高齢者の孤独死」という深刻な問題をきっかけにしながらも、高齢化社会の現実をポジティブにとらえ、あらたな事業を創出しつつある。いかなる事業も、運営する人、それにサービスの提供を受ける人双方が幸せを得るためのものであり、WIN-WINの関係が構築されなくてはならない。バジクルが、高齢化社会のコミュニティーづくりに新たなモデルを提示していけるかどうか、注目したい。

【クレジット】
食事サロン「バジクル」
運営主体・特定非営利法人「バジクール」(2007年11月27日設立)
札幌市北区北29条西4丁目2-1ファミール札幌1F
TEL 011-738-0155


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