2008年05月01日更新
<森永卓郎の経済探偵録>新卒社員の5月病を防ごう!
新卒社員の5月病を防ごう!
会社に定着させる手段は何か
●三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎
会社に定着させる手段は何か
●三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員獨協大学特任教授
森永卓郎
そろそろ新卒社員たちが5月病にかかる時期です。この時期、退職してしまう社員もいる。毎年発生する5月病だが、これを防ぎ、定着させる有効な手段は何だろうか。森永氏は「重要なことは、若者が将来に希望をもてるようにすることだ」と指摘する。
十分な労働条件、将来に希望をもてる環境づくり
緊張した面持ちで入社してきた新卒社員たちが、会社にも少し慣れ、5月病にかかる時期がやってきた。新卒社員たちが、たんに憂鬱な気分になるだけならよいのだが、なかには、すぐに会社を辞めてしまう社員も少なくない。
厚生労働省が雇用保険のデータを再集計した結果によると、就職後3年以内に、中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が離職している。いわゆる753現象だが、そうした早期離職については、最近の若者の忍耐力のなさや職業観の乏しさが原因だとして、若者を非難する声も多い。
確かに、最近のフリーターやニートといった「働かない」若者を目の当たりにすると、そう考える人が多くても不思議ではない。しかし、内閣府の「2007版青少年白書」によると、2006年のフリーター・ニートは計249万人で、前年比6%減、3年連続の減少となっている。増え続けてきたフリーターやニートが、2003年の281万人をピークに減少するようになったのは、突然若者に根性がついたとか、職業意識が高まったということではないだろう。そこには、明らかに景気回復にともなう雇用環境の改善があるのだ。
日本労働研究機構が行なった調査では、フリーターになる人は、大きく分けると「なんとなく型」「夢追い型」「やむを得ず型」の3類型に分かれるという。フリーターの5割は「なんとなく型」、1割は「夢追い型」だが、4割を「やむを得ず型」が占めている。つまり、少なくともフリーターの4割は、正規に就職しようとしたのだけれど、就職ができなかったり、あるいは一度就職できたにもかかわらず、あまりに労働条件がひどかったので辞めてしまった人たちなのだ。
景気は2002年1月に底を打って、その後回復に向かった。そして景気がよくなるなかで、就職ができなかった若者にも正規社員でまともな労働条件の雇用機会が行き渡るようになったことが、フリーター・ニートが減り始めた原因になっているのだ。だから、新卒社員を定着させるために、もっとも重要なことは、若者に十分な労働条件を与えるということだ。具体的には世間相場以上の賃金を支払い、残業や休日出勤をできるだけ避けるようにして、新卒社員が普通の暮らしができるようにしてやることだ。
ただ、自分で書いておきながら、自分で虚しさを感じてしまうほど、このことは解決策としては役に立たない。この不景気のなかで、世間並み以上の賃金を支払うというのは経営上困難を極めるし、業務の繁閑を考えたら、残業や休日出勤を避けることは、非常に難しいからだ。
また、労働条件という意味では、いまやもっとも充実している公務員でさえ、若年離職をする人が増えていることを考えると、労働条件さえよくすれば、それで若者が定着するわけではないことも、また事実だろう。それでは、どうしたら、若者が定着するのだろうか。私は、現実の労働条件とともに、より重要なことは、若者が将来に希望をもてるようにすることだと思う。
将来の糧となるような仕事を思い切って与えること
将来の希望を与える第一の方法は、おもしろい、将来の糧となるような仕事を思い切って与えることだ。
新卒社員を採用した企業は、極端にいうと、新卒社員の扱いが大きく2つに分かれている。ひとつは、若い、活きのいい労働力として、目一杯使おうと考える会社で、もう一方は、将来大きく育つように、ていねいにOJT(On the Job Training)で仕事の基本を身につけさせていく会社だ。
私は、日本専売公社(現日本たばこ産業)に就職したのだが、一番感謝しているのは、新入社員のときに、半年間にもわたる新入社員研修をしてもらえたことだ。座学はそれほど多くなく、大部分が工場の実習だった。ただ、同じ機械に張り付いてずっと作業をするというのではなく、原料加工、巻き上げ、包装、ボール箱づめなど、工場のすべての工程を1週間ずつくらいのペースで回っていくのだ。
習熟していないから、いくらOJTといっても生産に役立つわけではない。むしろ、不良品の山を築いたり、機械を壊したりして、会社にずいぶん損害を与えてしまった。だが、そうしてすべての工程をみずから体験させてもらったおかげで、モノづくりの仕組みが本当によくわかった。
もちろん、いまのご時世で、新入社員研修にそんなコストをかけるわけにはいかないだろうが、それでも、新卒社員に将来の力をつけさせるような仕事を与えていくということ自体は、どんな会社でも不可能ではないだろう。いまは、何の経験にもならないような、たんなる下働きの補助作業だけを与えている会社が多い。そうした仕事は仕事自体に喜びがないものが多いので、やっている新卒者も嫌になってしまうのだ。
「失敗の責任は自分が取るから、自由にやりさない」という発言
新卒者に将来の希望を与える第二の方法は、中堅の社員自身が楽しそうに仕事をすることだ。
私は、シンクタンク研究員時代にフリーターの実態調査を何度か経験したが、フリーターの人たちが共通していうことがある。「なんとなく型」「夢追い型」「やむを得ず型」の3類型が共通していうことだ。それは、「いまのサラリーマンのようにはなりたくないよな」というセリフだ。
若者は見ていないようで、冷徹に大人の働き方をみている。一生懸命働いているのに、上司からは無理難題を押し付けられ、クライアントには理不尽な要求を突き付けられ、それでも我慢して難局をくぐりぬけても、待っているのは賃金凍結とリストラだけ。当然、表情だって曇ってくる。そうした大人の姿を見ていたら、若者が将来に希望をもつはずがないのだ。
仕事は遊びではないのだから、いつもニコニコなんてしていられない。しかし、つらい仕事のなかにも、楽しい部分は必ずあるだろう。そこにできるだけ目を向けて、暗くならずに、前向きに働く。そうすれば、会社の雰囲気もおのずと明るくなるのだ。もちろん、社員の心持ちだけでそれが達成できるわけではない。
一番重要なのは経営トップの姿勢だ。思い切って現場に権限委譲を行ない、失敗を叱責するのではなく、チャレンジを評価する経営方針を打ち出すべきだ。「失敗の責任は自分が取るから、自由にやりさない」。そうした発言をトップや部門長がすれば、その会社の社員は必ず将来への希望をもつはずなのだ。
緊張した面持ちで入社してきた新卒社員たちが、会社にも少し慣れ、5月病にかかる時期がやってきた。新卒社員たちが、たんに憂鬱な気分になるだけならよいのだが、なかには、すぐに会社を辞めてしまう社員も少なくない。
厚生労働省が雇用保険のデータを再集計した結果によると、就職後3年以内に、中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が離職している。いわゆる753現象だが、そうした早期離職については、最近の若者の忍耐力のなさや職業観の乏しさが原因だとして、若者を非難する声も多い。
確かに、最近のフリーターやニートといった「働かない」若者を目の当たりにすると、そう考える人が多くても不思議ではない。しかし、内閣府の「2007版青少年白書」によると、2006年のフリーター・ニートは計249万人で、前年比6%減、3年連続の減少となっている。増え続けてきたフリーターやニートが、2003年の281万人をピークに減少するようになったのは、突然若者に根性がついたとか、職業意識が高まったということではないだろう。そこには、明らかに景気回復にともなう雇用環境の改善があるのだ。
日本労働研究機構が行なった調査では、フリーターになる人は、大きく分けると「なんとなく型」「夢追い型」「やむを得ず型」の3類型に分かれるという。フリーターの5割は「なんとなく型」、1割は「夢追い型」だが、4割を「やむを得ず型」が占めている。つまり、少なくともフリーターの4割は、正規に就職しようとしたのだけれど、就職ができなかったり、あるいは一度就職できたにもかかわらず、あまりに労働条件がひどかったので辞めてしまった人たちなのだ。
景気は2002年1月に底を打って、その後回復に向かった。そして景気がよくなるなかで、就職ができなかった若者にも正規社員でまともな労働条件の雇用機会が行き渡るようになったことが、フリーター・ニートが減り始めた原因になっているのだ。だから、新卒社員を定着させるために、もっとも重要なことは、若者に十分な労働条件を与えるということだ。具体的には世間相場以上の賃金を支払い、残業や休日出勤をできるだけ避けるようにして、新卒社員が普通の暮らしができるようにしてやることだ。
ただ、自分で書いておきながら、自分で虚しさを感じてしまうほど、このことは解決策としては役に立たない。この不景気のなかで、世間並み以上の賃金を支払うというのは経営上困難を極めるし、業務の繁閑を考えたら、残業や休日出勤を避けることは、非常に難しいからだ。
また、労働条件という意味では、いまやもっとも充実している公務員でさえ、若年離職をする人が増えていることを考えると、労働条件さえよくすれば、それで若者が定着するわけではないことも、また事実だろう。それでは、どうしたら、若者が定着するのだろうか。私は、現実の労働条件とともに、より重要なことは、若者が将来に希望をもてるようにすることだと思う。
将来の糧となるような仕事を思い切って与えること
将来の希望を与える第一の方法は、おもしろい、将来の糧となるような仕事を思い切って与えることだ。
新卒社員を採用した企業は、極端にいうと、新卒社員の扱いが大きく2つに分かれている。ひとつは、若い、活きのいい労働力として、目一杯使おうと考える会社で、もう一方は、将来大きく育つように、ていねいにOJT(On the Job Training)で仕事の基本を身につけさせていく会社だ。
私は、日本専売公社(現日本たばこ産業)に就職したのだが、一番感謝しているのは、新入社員のときに、半年間にもわたる新入社員研修をしてもらえたことだ。座学はそれほど多くなく、大部分が工場の実習だった。ただ、同じ機械に張り付いてずっと作業をするというのではなく、原料加工、巻き上げ、包装、ボール箱づめなど、工場のすべての工程を1週間ずつくらいのペースで回っていくのだ。
習熟していないから、いくらOJTといっても生産に役立つわけではない。むしろ、不良品の山を築いたり、機械を壊したりして、会社にずいぶん損害を与えてしまった。だが、そうしてすべての工程をみずから体験させてもらったおかげで、モノづくりの仕組みが本当によくわかった。
もちろん、いまのご時世で、新入社員研修にそんなコストをかけるわけにはいかないだろうが、それでも、新卒社員に将来の力をつけさせるような仕事を与えていくということ自体は、どんな会社でも不可能ではないだろう。いまは、何の経験にもならないような、たんなる下働きの補助作業だけを与えている会社が多い。そうした仕事は仕事自体に喜びがないものが多いので、やっている新卒者も嫌になってしまうのだ。
「失敗の責任は自分が取るから、自由にやりさない」という発言
新卒者に将来の希望を与える第二の方法は、中堅の社員自身が楽しそうに仕事をすることだ。
私は、シンクタンク研究員時代にフリーターの実態調査を何度か経験したが、フリーターの人たちが共通していうことがある。「なんとなく型」「夢追い型」「やむを得ず型」の3類型が共通していうことだ。それは、「いまのサラリーマンのようにはなりたくないよな」というセリフだ。
若者は見ていないようで、冷徹に大人の働き方をみている。一生懸命働いているのに、上司からは無理難題を押し付けられ、クライアントには理不尽な要求を突き付けられ、それでも我慢して難局をくぐりぬけても、待っているのは賃金凍結とリストラだけ。当然、表情だって曇ってくる。そうした大人の姿を見ていたら、若者が将来に希望をもつはずがないのだ。
仕事は遊びではないのだから、いつもニコニコなんてしていられない。しかし、つらい仕事のなかにも、楽しい部分は必ずあるだろう。そこにできるだけ目を向けて、暗くならずに、前向きに働く。そうすれば、会社の雰囲気もおのずと明るくなるのだ。もちろん、社員の心持ちだけでそれが達成できるわけではない。
一番重要なのは経営トップの姿勢だ。思い切って現場に権限委譲を行ない、失敗を叱責するのではなく、チャレンジを評価する経営方針を打ち出すべきだ。「失敗の責任は自分が取るから、自由にやりさない」。そうした発言をトップや部門長がすれば、その会社の社員は必ず将来への希望をもつはずなのだ。
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