2007年09月27日更新
【ブームの仕掛け人】味ノマチダヤ社長 木村賀衛氏
地酒をカップ販売してファン層拡大
日本各地の酒蔵には個性的な名酒が数多くある。それら地酒の味を広く知ってもらうためにはどうすればいいか。東京・中野で酒販店を営む木村賀衛(よしもり)社長が思いついたのがカップ酒として売ること。そうすれば、さまざまな地酒を手ごろな価格でより多く楽しめる。このアイデアが的中し、地酒ファンをどんどん増やしている。
<月刊ベンチャー・リンク 07年8月号>
日本各地の酒蔵には個性的な名酒が数多くある。それら地酒の味を広く知ってもらうためにはどうすればいいか。東京・中野で酒販店を営む木村賀衛(よしもり)社長が思いついたのがカップ酒として売ること。そうすれば、さまざまな地酒を手ごろな価格でより多く楽しめる。このアイデアが的中し、地酒ファンをどんどん増やしている。<月刊ベンチャー・リンク 07年8月号>
■味ノマチダヤ東京都中野区に店舗を構える創業52年の酒販店。地域住民に愛され、小売りのほかに飲食店などへの卸業も兼ねる。地酒や焼酎、安全でおいしい調味料、みそ、みりん、食品など、全国から選りすぐった商品を数多く取りそろえている。社名は、味にこだわりたいとの思いから命名された。
URL:http://www.ajinomachidaya.com/
蔵元に直接交渉して商品化、
月2万本を売り上げるまでに
若い女性が立ち飲みバーで、カップ酒を手に一日の疲れを癒やす―。以前は考えられなかった光景が、当たり前のように見られるようになった。〝おじさんの飲む安酒〝というイメージから脱却したカップ酒が次々と誕生し、女性や若者の間で「おしゃれで手軽、おいしいお酒」として人気を呼んでいる。
この新しい波を起こしたのは、東京・中野にある酒販店「味ノマチダヤ」の木村賀衛社長だ。取り引きのある全国の蔵元を回って口説き落とし、高品質でおしゃれなラベルの付いた〝地酒カップ.を商品化した。2004年に販売を始めてから、続々と新商品が加わり、06年1月には月間2万本の売り上げを記録。その後も好調を維持している。
現在、同社が扱うのは、70銘柄。特に人気が高いのは、山形県にある酒田酒造の上喜元(じょうきげん)だ。1カップ(180ml入り)で290円の純米吟醸酒。「酒田酒造の日本酒はどれもおいしい」と木村社長も高く評価する。また、水木しげるのマンガのキャラクターがラベルに描かれた「超辛口 こなき純米」(鳥取県・千代むすび酒造)、黒猫のイラストをカップに印刷した純米吟醸酒「にゃんかっぷ」(静岡県・志太泉酒造しだいずみ)など、遊び心のあるパッケージも目を引く。焼酎ブームに押されていた日本酒に、明るい光を当てた地酒カップは、カップ酒のイメージを一新すると同時に、若者や女性という新たな日本酒ファンの開拓にも成功した。
■味ノマチダヤ社長 木村賀衛氏1950年東京生まれ。
72年日本大学経済学部卒。同年東急ストアー入社。
74年に味ノマチダヤに入社し、現在に至る。
おしゃれで低価格、
質の高いカップ酒を追求
木村社長が新しいカップ酒の製品化に乗り出したのは、取引先の飲食店の担当者から相談を受けたのがきっかけだ。「東京・渋谷で立ち飲み店を開きたい。カップ酒をメニューに入れたいが、どうだろうか」と持ちかけられた。早速、木村社長は仕入先の蔵元を回ってカップ酒としての販売状況を調べてみたが、手がけているところは少ない。「容器が小さいため製造作業に手間がかかる」「量産できない小さな蔵元にとっては利益も少ない」などの理由による。カップ酒といえば、元々、量産可能な大手メーカーが低価格で大量に売る商品という位置づけだから、小さな蔵元の腰が引けるのも当然だろう。
味ノマチダヤでもほとんど扱っていなかった。しかし、木村社長は商機を見いだした。180mlの小さなカップは、日本酒をあまり飲んだことがない人にも気軽に手に取ってもらえる。また、カップで売れば複数の蔵元の酒を楽しんでもらえる。日本酒の魅力を幅広い層に広めるのにぴったりだ。
だが、課題が山積みだった。日本酒の新たな愛飲者を獲得するためには、純米酒や純米吟醸酒といった質の高い酒を詰めて、そのおいしさを知ってもらうのが近道だが、そもそも蔵元が乗り気ではない。カップ酒での出荷はコストがかかるうえ、手軽に飲めるように低価格で提供するとなれば、手間の割に利益が少なくなるからだ。さらに、若者や女性に訴求するには見た目も重要で、ラベルのデザインにもひと工夫を要する。蔵元がカップ酒を敬遠するのも無理はない。
それでも木村社長は、「質が高く、低価格でおしゃれなカップ酒を」と、蔵元に頼み込んで回った。殺し文句は、「日本酒復活のために協力してほしい」
当時、蔵元の間に不安の影が広がっていたことで、木村社長の提案に対する反応が徐々に変わっていく。国税庁の統計によると、94年に126万6849klだった日本酒の消費量は、10年後の04年に75万8739klまで落ち込んでしまった。危機感を抱いた蔵元は、木村社長の提案に乗った。
地酒カップがずらりと並ぶ味ノマチダヤの店内。日本酒や焼酎なども種類は豊富だ。
利き酒会を開き、
飲食店と蔵元の橋渡し
こうしてできあがった地酒カップは、木村社長が最初に相談を受けた立ち飲み店や寿司店などが取り扱った。半年ほど経過したあたりから、手ごたえを感じ取る。
当初から狙っていた若者や女性から「日本酒のおいしさを知った」「カップがかわいい」といった声が上がり始めたのだ。マスコミからの取材依頼が舞い込むようになると、地酒カップの知名度が上がり、人気が人気を呼ぶ形で、飲食店からの注文が急増した。
「自分でも反響の大きさには驚いています。父の日の贈り物や引き出物に使いたいという要望も多かったので、ギフト用の化粧箱も用意しました」(木村社長)
地酒カップを含め、味ノマチダヤの売り上げの80%までが飲食店向け。残りの19%は店頭販売で、1%はインターネット販売だ。飲食店への販売促進活動と認知度のさらなる向上のために、同社は「マチダヤの利き酒会」を年2回開催している。この会は毎回、飲食店や蔵元、マスコミ関係者などが集まり、蔵元にとって新商品のお披露目会でもある。今年5月に行なわれた利き酒会には30の蔵元が参加し、360人ほどが集まった。
「マチダヤの利き酒会」の最大の長所は、顧客である飲食店と蔵元が直に対話できることだ。蔵元は、店側の率直な感想を参考に、顧客ニーズを反映した酒造りが可能となる。
「大手と違って小さな蔵元は市場を創造することが苦手です。〝いい製品.はできても〝いい商品.を作れるとは限りません。市場を発掘し、そこに効果的な商品を投入して、売れる仕掛けを打っていくのが、私たちの仕事だと思っています」(木村社長)
市場を創造することが
酒販店の醍醐味
今となっては、カップ酒に新たに取り組みたいという蔵元が増えている。それでも木村社長は、「今のブームに甘んじてはいけない」とさらなる攻勢をかける。そのひとつが、300mlで約1000円程度の高級な大吟醸酒カップ。すでに昨春から販売している。
「一升瓶で5000円から6000円もする大吟醸酒は、日本酒入門者にとって敷居が高い。少量で手ごろな値段に抑えればもっと気軽に味わってもらえると考えました」(木村社長)。近く、「古酒カップ」の販売も予定しているという。
さらに、カップ酒戦略の展開は日本酒の領域だけにとどまらない。今夏には「カップ焼酎」を発売する。味ノマチダヤが容器の開発から携わり、07年2 月には実用新案を取得した。水割りやお湯割りでおいしく飲めるように工夫されている。カップの容量は194mlに90mlの焼酎を入れて販売、カップに表示された目盛りによって、焼酎と水またはお湯の割合が「4対6」と「3対7」になる目安が分かる仕組みだ。1本250円程度で売り出し、このところ勢いに陰りが見られる焼酎人気の再燃を目論む。
「よその店と同じことをして儲けても、おもしろくないでしょう。私がおもしろがって商売をしているから、お客さんもおもしろがって付き合ってくれるのだと思います」こう話す木村社長は、日ごろから従業員に「製品を商品として販売するまでのプロセスを楽しめ」と説く。顧客や蔵元と話し合い、市場を創造する過程にこそ、酒販店の仕事のおもしろさがあると考えるからだ。「誰もやっていない新しいことを始めるとき、不安よりもワクワクするような高揚感を覚える」。
そう言う木村社長がいま思い描いているのはニューヨーク・マンハッタンへの出店だ。すでに現地調査は終えている。「いつ実現するかは分からない」とはぐらかすが、近い将来、地酒カップを手に談笑するニューヨーカーの姿が見られるかもしれない。
ラベルに水木しげるの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクター「子泣き爺」をあしらった「超辛口こなき純米」(千代むすび酒造・鳥取県境港市)。
特別純米酒山廃仕込みの「羽陽一献」(中沖酒造店・山形県川西町)。
以前からあったカップ酒「“ワン”カップ」をもじって命名した「にゃんかっぷ」(志太泉酒造・静岡県藤枝市)。
木村社長も絶賛する一番人気の「純米吟醸上喜元」(酒田酒造・山形県酒田市)。
酒造用の米で人気の山田錦を使用して作られた「日高見」(平孝酒造・宮城県石巻市)
「喜正」(野崎酒造・東京都あきる野市)はすっきりとしたのど越しが特徴。)
口当たりと切れの良さから「飲み飽きない」と評判の村祐「和」カップ(村祐酒造・新潟県新潟市)。(文・百瀬崇)



