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2008年03月19日更新

<熱戦>紳士服業界

新規顧客を求めて多様な業態を展開
カジュアル衣料や女性服も取り扱い
販売エリアの奪い合いでM&A加速




業界トップをひた走る青山商事の「紳士服の青山」。全国をくまなくカバーしているのは同社だけだ。


郊外型店の路線変更に加えて“脱紳士服化” が進んでいる

紳士服販売業界でシェア争いが過熱し、大手各社は独自の出店戦略や商品戦略を仕掛け、新たな顧客層の獲得に乗り出している。青山商事(広島県福山市)はジーンズやカジュアル衣料を中心に販売する「キャラジャ」や、セレクトショップの「ユニバーサル・ランゲージ」を展開。さらにショッピングセンター(SC)のテナントショップとして「プラスエー・ザ・スーツ・アオヤマ」「ザ・スーツカンパニー・ウィークエンド」を出店している。

業界一の資本力を武器に、幅広い業態に参入しているのが特徴だ。AOKIホールディングス(東京都港区)は、20~30代の男女向けのビジネス・カジュアル衣料店「オリヒカ」をSC中心に展開。連結子会社化したマルフルのファミリーカジアル専門店「エムエックス」も新規出店を加速させている。また本業の「AOKI」ではパリコレクションのデザイナーを起用したブランド服を販売したり、団塊世代を狙った旅行ウエアを充実させたりしている。AOKIホールディングス経営戦略企画室広報の梅澤綾子さんは「糸の選定・開発からデザイン、縫製、販売までを一貫して行ない、トータルでのスタイリングを提案していきます」と強調する。

SC向けに「Nステージ」「はるやま・ブルーレーベル」などを出店するはるやま商事(岡山市)は、ニューファミリー層の取り込みに注力し、40歳以下の客層を狙う。さらにレディース需要の開拓にも積極的で、女性向けリクルートスーツを充実させている。この動きに合わせて人材戦略も工夫し、パート社員を含めて約40%を占める女性従業員の数もさらに増やしていくという。

コナカ(横浜市戸塚区)は都心部の商業ビルやSCにオーダースーツ専門店「スマートクロージングO・S・V」を展開。低価格ながら自分の体に合ったスーツをオーダーできるということで団塊ジュニア層の関心を集めている。また若年層向けの「スーツセレクト」では認知度の高いデザイナーを起用して話題性を出すとともに、現代的なファッション性や高品質を強調する。




市場は10年で4割減、生き残り競争が激化

紳士服業界はこれまで、郊外の幹線道路沿いに中規模店舗を積極展開し、ビジネスマンを主対象に低価格帯スーツを販売することで成長してきた。2007年3月期の連結売上高が約2137億円と業界1位の座を堅守する青山商事に続き、約1121億円(07年3月期)のAOKIホールディングス、約583億円(07年3月期)のはるやま商事、約569億円(07年9月期)のコナカが4強と呼ばれている。

市場全体を見渡すと陰りが見られる。矢野経済研究所の調査結果によれば、紳士用スーツの小売市場規模は92年頃から年々減少の一途をたどっているという。06年は推計3000億円となり、10年間で4割強も減少している。安値競争の激化による販売額の低下が背景の1つにあると見られる。さらに団塊世代の大量退職が追い打ちをかけそうだ。今後は生き残り競争が激しさを増すであろう紳士服業界で顕在化しているのが、M&A(合併・吸収)による事業基盤の拡大と、新たな顧客獲得に向けた新業態の開拓である。



(左)「AOKI」は新ロゴによる業態進化を既存全店で進め、08年2月をメドに改装を完了する予定。(右)トータルコーディネートの提案をしやすいよう売場のレイアウトを刷新した「AOKI」の店内。



(左)はるやま商事の「紳士服はるやま」と「紳士服マスカット」は、西日本を中心に展開している。(右)サイズや商品ジャンルを豊富に取りそろえた「紳士服はるやま」。クールビズ、ウォームビズ、レディースリクルート商品なども用意する。



東日本を中心に展開する「コナカ」。06年にフタタを傘下におさめたことによって、九州地域への進出を果たすことに成功した。

地方の陣取り合戦で大手がM&Aを強化

スーツは元々、大手百貨店や専門店のほかではほとんど売られていなかった。しかし、青山商事が74年4月に郊外型紳士服店「洋服の青山」1号店を広島県西条市に出店したことが、紳士服市場に革命を起こす。仕入れから販売までを一括して行なうことで低コスト化を図り、品質を保ちながらも安さを売りにしたスーツ販売店はそれまでにない業態で、市場を開拓していった。

78年には、はるやま商事とコナカ、79年にはAOKIホールディングスも郊外型店舗を出店。売り場面積500㎡未満の店舗を次々に増やしていった。郊外型紳士服店が日の出の勢いで全国に増えていった要因の1つには業界特有の商習慣がある。仕入れから支払いまでに半年ものサイト(決済期限)があり、潤沢な資金を手元に置きやすいことだ。青山商事は90~95年の間に店舗数を2.6倍に増強、他社の店舗もこの間に5~10倍に増えている。

さらに90年代前半には東京都心部にも出店、これが成功を収めたことで、各社は全国津々浦々に販売エリアを広げていく。バブル崩壊後の不況を受け、不採算店舗の統廃合なども行なわれてきているが、基本的に紳士服店はほかの小売業よりも粗利率が高い。激しい安売り競争も一服感があり、現在はスーツ単価や客単価も上昇傾向にある。そのため、店舗数の増加が売り上げに及ぼす貢献度は依然として高く、出店地域でのシェアを獲得する意味でも、各社とも出店戦略を重要視している。こうした背景のもとで活発化してきたのがM&Aだ。

06年8月、AOKIホールディングスとコナカとの間で起きたフタタ(福岡市中央区)の争奪戦は記憶に新しい。フタタは九州に80店舗ほどを構える老舗紳士服企業であり、これまで同地域にはAOKIホールディングス、コナカともに1店舗も進出できていなかった。M&A競争に勝利したコナカはフタタと経営統合を果たし、九州進出の足がかりを得た。

青山商事はすでに全国をカバーしているが、2位以下の各社は全国各地でまだ出店余地を残しており、M&Aによる販路拡大は加速している。東日本に強いAOKIホールディングスは中京地区のトリイや東北のゼビオメンズを取り込み、西日本に基盤を持つはるやま商事は北関東のマツヤと手を結んだ。「弱い地域をどのように強化していくか。地元に強い同業他社を吸収し、ドミナント効果(特定地域に集中的に出店して認知度や売上を向上させる効果)を高める動きが今後も継続しそうです」と業界に精通する日本繊維新聞社の荒潔氏は予測する。4強を軸にした業界再編の動きはまだ続きそうだ。




団塊世代や若年層を狙いスーツの売り方を変える

販路拡大によるシェア獲得に加えて今後の重要課題となるのが、新規顧客の開拓や新業態の確立だ。AOKIホールディングスの梅澤さんは「団塊世代には退職後も働き続ける方も多く、新しいビジネススタイルの提案により当面はこの世代の需要が縮小しない」と予測する。
はるやま商事の総合企画部・山本隆吾氏はこう分析する。「お客様の利便性、機能性、快適性、オシャレ感など、今以上の商品開発や新提案を継続していけば、紳士服市場は縮小しない
と考えています」

大手各社は強気の姿勢を崩さないが、一方で従来の枠を超えた販売戦略も必要と見ている。最近では団塊世代の大量退職を迎えて、ジャケットやジャンパー、ジーンズなどのカジュアル衣料を充実させ、ビジネス用途以外で活用できる衣料品を幅広く販売し始めた。休暇利用はもちろん、これまでファッションに無関心だったビジネスマンがスーツを脱ぐ日が来たあとも、来店してもらえるような商品構成を心がけている。

また若年層に対するアプローチも怠らない。99年10月にオンリー(京都市右京区)が1万9000円と2万8000円の2価格帯のスーツを提案した「ツープライスショップ」が若年層をつかみ、ヒット業態になった。青山商事は「ザ・スーツカンパニー」、はるやま商事は「パーフェクト・スーツ・ファクトリー」、コナカは「スーツセレクト」と同類業態を開発し、後を追うようにして参入した。
既存店舗では就職活動時の購買が中心だった若年層に対し、これらの新業態によって継続的な需要の掘り起こしに成功している。出店形態としては、従来の郊外型店だけではなく、活況のある大型SC向け店舗も強化している。従来店よりもカジュアル衣料を増やし、若年層やファミリー層を狙った新業態だ。認知度不足などにより成果はまだこれからのようだが、試行錯誤を繰り返しながら存在感の確立を図っている。

紳士服業界がさらなる成長を続け、生き残りを図るためには新規顧客の獲得が必須である。だが、それはすでに確立された既存市場への参入という厳しい道を歩まねばならないことを意味する。カジュアル業態であれば「ユニクロ」「しまむら」「ライトオン」、セレクトショップ業態であれば「ユナイテッド・アローズ」「ビームス」など、名だたる先駆者とのシェア争いに加わることになる。

実際、青山商事のカジュアル衣料店「キャラジャ」は、売上高で前年割れが続く苦戦を強いられている。ほかの業態についても誕生から間もないことや、ノウハウが蓄積されていないこともあり、決して楽観視できる状況ではない。本業の経験が生きる部分とそうでない部分を的確に判断し、PR活動や出店増によって認知度を高めていかなくてはならない。

店舗数や売上高、収益性、新業態開発力などの点から、青山商事を筆頭とする4強体制は崩れそうもない。ただし各社のシェアは、お互いの足りない部分を補完し合うようなM&Aや新業態への進出、新規顧客の獲得の成否などによって変わっていくだろう

飲食業やカード事業など非衣料品ビジネスも展開

紳士服業界各社では、紳士服販売以外の事業を手がけているケースも少なくない。青山商事はダイソーとの合弁で作った子会社が100円ショップを経営。そのほかにカード事業も展開する。AOKIホールディングスはブライダル事業「アニヴェルセル表参道」やカラオケ事業「コート・ダジュール」、リラクゼーション施設「快活クラブ」の経営。

はるやまはネットカフェ「クラブモンブラン」やうどん店「釜たま」などを手がける。コナカはベーカリーレストラン「サンマルク」や「大衆食堂半田屋」の飲食業、ネットカフェ「スペースクリエイト自遊空間」を子会社で運営している。

だが、地主との契約が続いている不採算店の遊休スペースを有効活用する目的で始めたビジネスもあり、4社の非衣料品事業への取り組みには温度差があるようだ。なお、各社の非衣料品事業の売上比率は、青山商事が約22%、AOKIホールディングスが約30%、はるやま商事が約2%、コナカが約3%と、大きな差異がある。

文・横山博之


キーワード

衣料紳士服団塊

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