2008年03月13日更新
<ヒットのツボ>「だしポット」/福泉窯
お湯を注ぎ1分間で本格だしがとれる

一番最初に商品化したものは染付けを施していない白単色のものだったが、現在は色違いのものや染付けを施したものも販売している。
専務取締役 下村麗子(しもむら・れいこ)
1954年佐賀県有田町生まれ。短大卒業後、家業でもあった福泉窯の前身である福田製陶所に入社。陶磁器の既成概念にとらわれず、生活様式の変化を先取りした商品の企画・商品化を目指している。

一番最初に商品化したものは染付けを施していない白単色のものだったが、現在は色違いのものや染付けを施したものも販売している。
専務取締役 下村麗子(しもむら・れいこ)1954年佐賀県有田町生まれ。短大卒業後、家業でもあった福泉窯の前身である福田製陶所に入社。陶磁器の既成概念にとらわれず、生活様式の変化を先取りした商品の企画・商品化を目指している。
日本料理界の第一人者である野崎洋光(ひろみつ)さんの言葉をヒントに、有田焼の窯元が開発した「だしポット」。陶磁器の中にかつお節などのだし素材を入れてお湯を注ぐだけで、おいしいだし汁を作れる画期的な商品だ。手軽でありながら化学調味料に頼らない健康的で本物志向の料理作りに役立つとあって主婦層を中心に人気商品となっている。
だれにでも簡単にでき2番だしもとれる
「だしポット」の仕組みはいたって単純だ。陶磁器のポットの中にステンレス製のストレーナー(こし器)があり、その中にだしの元となる昆布とかつお節を入れて、沸騰したお湯を注ぎふたをするだけ。ポット内のお湯を、だしをとるのに最適とされる85~90度に保ち、約1分待つだけでおいしいだし汁ができあがる。
ステンレスのストレーナーが本体にきれいに収まるように仕上げることができたのは同社の高い製陶技術があったからこそ。
だしをとる際の温度調節や素材を引き上げるタイミング、さし水などのわずらわしい作業は必要ない。だし素材の量や時間の調節でだしの濃度も調整できるうえ、再びお湯を注げば、約2分で2番だしをとることも可能だ。
この手軽さが「だしをとるのは面倒くさい」とついつい化学調味料に頼りがちだった主婦の心をつかんだ。通信販売からじわじわと人気に火がつき、02年の発売以来、約8万個を販売している。
環境に配慮して自然食を好むスローフードが人々の関心を呼ぶなど時代の流れも追い風となり、雑誌やテレビに頻繁に取り上げられ、売り上げも右肩上がりだ。結婚式などの引き出物としての需要も増えてきたほか、「独立した子供たちにもあげたい」と2個目、3個目を買い求める人も多いという。
製造工程は完全分業制。成型や染付けなどそれぞれの工程で熟練した職人が担当している。同社の職人は比較的若く、商品開発にも意欲的だ。
開発のきっかけは著名料理人のひと言
だしポットは陶磁器で有名な有田焼の窯元「福泉窯」(佐賀県有田町)と日本屈指の料亭「分とく山」(東京都港区)の野崎洋光料理長の共同開発で誕生した。
「野崎さんとの会話の中で『家庭で簡単にだしがとれる商品がつくれないだろうか』というひと言が開発を始めるきっかけでした」(福泉窯の下村麗子専務)
新たに展開を始めた「くらしの料理器」シリーズ。写真中央に3つ並ぶ「鮨千代口」はすしや刺身を食べるときの醤油の切れをよくするための工夫が施されている。
有田焼は、生活習慣の変化による陶磁器離れや中国製品の台頭などにより、出荷額が減少を続けていた。料亭や旅館への納品が中心だった同社も、広く一般消費者にも受け入れてもらえる商品の開発を模索していたところだった。下村専務は「伝統を踏襲しつつも、従来の殻を破って新しい商品作りに取り組む必要性を感じていました」と当時を振り返る。
野崎料理長など周囲の協力もあり、下村専務は簡単にだしがとれる陶磁器の試作にすぐに乗り出す。おいしいだしをとるためには、だしを煮出す熱湯をある一定の温度に保つことが絶対条件となるが、それを陶磁器で可能にするのは容易ではない。陶磁器に使用する陶土やわずかな形と厚みの違いによって、温度がまったく変わってしまう。また、だしをとるためには陶磁器の中にストレーナーを収納し、なおかつ容易に出し入れができるような形状に焼き上げる必要がある。
ここで役立ったのが、同社の精巧な製陶技術だ。基礎となる陶土を厳選し、器の形や厚みを微妙に調整しながら、いくつもの試作品を作った。試行錯誤を続けた結果、沸騰した熱湯を入れるとだしをとるのに最適な85~90度へ低下するポットが完成した。
最初に商品化しただしポットは、あえて有田焼の特徴である染付けを施していない。現代風の台所に置いても違和感のない白色で、幅広い年代に愛用されることを狙った。
また、陶磁器らしからぬシンプルなデザインによって百貨店などでは陶器コーナーではなく、台所用品として扱われている。陶磁器愛好家だけでなく、広く一般消費者の目にも付きやすいようになるという思わぬ効果ももたらした。販路開拓は懇意の商社に一任し、「メーカーとして商品作りに専念できたことも成功要因の1つでした」(下村専務)。
また、色々な料理に活用してもらため、だしポットを使ったレシピ料理別の調理手順)も付けて売り出した。協力者の野崎料理長も自身が出演する料理番組で、だしポットを紹介したこともあり、認知度が高まった。手軽さやデザイン性に加えて、本物かつ健康志向の消費者の心を捉えた商品として人気を集め、販売数を増やしていった。
新シリーズの展開で第2のヒットを狙う
予想を上回るだしポットのヒットは、確かな伝統技術に裏打ちされた高い商品力が認められた証でもある。同社では今後5年間で12万個の需要を見込む。08年からは、ひと回り大きいサイズや伝統の染付けを施した種類を加えている。客層を拡大すべく、すでに火を使わずに料理できるIH(電磁調理)対応のだしポットの開発も計画中だ。
さらに同社ではだしポットにとどまらず、第2、第3のヒット商品を目指して新商品の開発にも意欲的に取り組んでいる。野崎氏の協力を得ながら「くらしの料理器」というシリーズ名で美しさと機能性を追求した鮨千代口(すしや刺身用の小皿)や蒸し器、納豆鉢(納豆専用の器)などのシリーズ展開を始めている。今後も有田焼の既成概念にとらわれず、時代に合わせて進化した有田焼を作っていく方針だ。
【会社クレジット】
福泉窯
【本社】佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2842-3
【創業】1952年
【資本金】300万円
【売上高】1億8000万円
【従業員】21人
【事業内容】陶磁器製造業
【URL】http://www.fukusengama.co.jp
文・山川泰仁
「だしポット」の仕組みはいたって単純だ。陶磁器のポットの中にステンレス製のストレーナー(こし器)があり、その中にだしの元となる昆布とかつお節を入れて、沸騰したお湯を注ぎふたをするだけ。ポット内のお湯を、だしをとるのに最適とされる85~90度に保ち、約1分待つだけでおいしいだし汁ができあがる。
ステンレスのストレーナーが本体にきれいに収まるように仕上げることができたのは同社の高い製陶技術があったからこそ。だしをとる際の温度調節や素材を引き上げるタイミング、さし水などのわずらわしい作業は必要ない。だし素材の量や時間の調節でだしの濃度も調整できるうえ、再びお湯を注げば、約2分で2番だしをとることも可能だ。
この手軽さが「だしをとるのは面倒くさい」とついつい化学調味料に頼りがちだった主婦の心をつかんだ。通信販売からじわじわと人気に火がつき、02年の発売以来、約8万個を販売している。
環境に配慮して自然食を好むスローフードが人々の関心を呼ぶなど時代の流れも追い風となり、雑誌やテレビに頻繁に取り上げられ、売り上げも右肩上がりだ。結婚式などの引き出物としての需要も増えてきたほか、「独立した子供たちにもあげたい」と2個目、3個目を買い求める人も多いという。
製造工程は完全分業制。成型や染付けなどそれぞれの工程で熟練した職人が担当している。同社の職人は比較的若く、商品開発にも意欲的だ。開発のきっかけは著名料理人のひと言
だしポットは陶磁器で有名な有田焼の窯元「福泉窯」(佐賀県有田町)と日本屈指の料亭「分とく山」(東京都港区)の野崎洋光料理長の共同開発で誕生した。
「野崎さんとの会話の中で『家庭で簡単にだしがとれる商品がつくれないだろうか』というひと言が開発を始めるきっかけでした」(福泉窯の下村麗子専務)
新たに展開を始めた「くらしの料理器」シリーズ。写真中央に3つ並ぶ「鮨千代口」はすしや刺身を食べるときの醤油の切れをよくするための工夫が施されている。有田焼は、生活習慣の変化による陶磁器離れや中国製品の台頭などにより、出荷額が減少を続けていた。料亭や旅館への納品が中心だった同社も、広く一般消費者にも受け入れてもらえる商品の開発を模索していたところだった。下村専務は「伝統を踏襲しつつも、従来の殻を破って新しい商品作りに取り組む必要性を感じていました」と当時を振り返る。
野崎料理長など周囲の協力もあり、下村専務は簡単にだしがとれる陶磁器の試作にすぐに乗り出す。おいしいだしをとるためには、だしを煮出す熱湯をある一定の温度に保つことが絶対条件となるが、それを陶磁器で可能にするのは容易ではない。陶磁器に使用する陶土やわずかな形と厚みの違いによって、温度がまったく変わってしまう。また、だしをとるためには陶磁器の中にストレーナーを収納し、なおかつ容易に出し入れができるような形状に焼き上げる必要がある。
ここで役立ったのが、同社の精巧な製陶技術だ。基礎となる陶土を厳選し、器の形や厚みを微妙に調整しながら、いくつもの試作品を作った。試行錯誤を続けた結果、沸騰した熱湯を入れるとだしをとるのに最適な85~90度へ低下するポットが完成した。
最初に商品化しただしポットは、あえて有田焼の特徴である染付けを施していない。現代風の台所に置いても違和感のない白色で、幅広い年代に愛用されることを狙った。
また、陶磁器らしからぬシンプルなデザインによって百貨店などでは陶器コーナーではなく、台所用品として扱われている。陶磁器愛好家だけでなく、広く一般消費者の目にも付きやすいようになるという思わぬ効果ももたらした。販路開拓は懇意の商社に一任し、「メーカーとして商品作りに専念できたことも成功要因の1つでした」(下村専務)。
また、色々な料理に活用してもらため、だしポットを使ったレシピ料理別の調理手順)も付けて売り出した。協力者の野崎料理長も自身が出演する料理番組で、だしポットを紹介したこともあり、認知度が高まった。手軽さやデザイン性に加えて、本物かつ健康志向の消費者の心を捉えた商品として人気を集め、販売数を増やしていった。
新シリーズの展開で第2のヒットを狙う
予想を上回るだしポットのヒットは、確かな伝統技術に裏打ちされた高い商品力が認められた証でもある。同社では今後5年間で12万個の需要を見込む。08年からは、ひと回り大きいサイズや伝統の染付けを施した種類を加えている。客層を拡大すべく、すでに火を使わずに料理できるIH(電磁調理)対応のだしポットの開発も計画中だ。
さらに同社ではだしポットにとどまらず、第2、第3のヒット商品を目指して新商品の開発にも意欲的に取り組んでいる。野崎氏の協力を得ながら「くらしの料理器」というシリーズ名で美しさと機能性を追求した鮨千代口(すしや刺身用の小皿)や蒸し器、納豆鉢(納豆専用の器)などのシリーズ展開を始めている。今後も有田焼の既成概念にとらわれず、時代に合わせて進化した有田焼を作っていく方針だ。
【会社クレジット】
福泉窯
【本社】佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2842-3
【創業】1952年
【資本金】300万円
【売上高】1億8000万円
【従業員】21人
【事業内容】陶磁器製造業
【URL】http://www.fukusengama.co.jp
文・山川泰仁



