2008年02月21日更新
<食品製造>東京都渋谷区広尾「果匠 正庵」
広尾セレブに御用達の和菓子店
●果匠正庵
●果匠正庵
テレビや雑誌で、俳優やタレントがお気に入りの和菓子として紹介されることの多い「果匠 正庵」。東京都港区広尾にオープンしてちょうど10年。店頭に並ぶ定番商品には、ここにしかない斬新なアイデアが詰まっている。
老舗が強い和菓子業界において、おいしいものを知り尽くす広尾のセレブ達に受け入れられた正庵。いかにしてこの地位を得たのか。創業10年の軌跡をうかがった。
老舗が強い和菓子業界において、おいしいものを知り尽くす広尾のセレブ達に受け入れられた正庵。いかにしてこの地位を得たのか。創業10年の軌跡をうかがった。
きっかけは、駄餅屋さんのうぐいす
果匠正庵の店主、諏合正朗氏は、静岡県静岡市の中華料理店に3人兄弟の次男として生まれた。両親は、三人で仲良く店を継いで欲しいと、三人の役割分担も想定していたが、諏合氏は、両親の反対を押しやって、18歳で和菓子の道に入った。
果匠正庵 店主 諏合正朗氏。「正庵」は、正という字は諏合氏の名前の正朗から。「正」は五画、五感で楽しんでいただける和菓子を、「庵」くつろいで召し上がっていただきたいと考えてつけた。あわててひとりで考えた名前で、そば屋のようだったかなと思ったが、その後、お寺の住職にいい名前だとほめられ安心した、と。
和菓子を選んだきっかけは、「実家の向かいにあった駄餅屋さんのうぐいすです。小さい頃から大好きでした。なんておいしいんだろう。自分もこんなのを作りたいとずっと思っていました。高校を卒業するとき、自分の仕事を何にするかと考えたとき、やっぱりこれをやりたいと思ったんです」という。
今も正庵のうぐいすには、「当店の起点」と説明が添えられている。
20年の修業生活を終え、広尾で開業
最初に修業に入ったのは、静岡県島田市の清水屋だった。その後、店は転々としたが、この業界を離れることはなかった。
「ぼくはプライドが高いし、生意気でわがまま。こんな性格だから、よく上ともめました」という。腕には自信があった。「自信がある」と自分で口にすることはしなかったが、自信があるから、「こうしたい」というアイデアが出てくる。
本店は、明治通り広尾1丁目交差点から渋谷に向かい、右手ひとつ目の角にある。ほか、東銀座の歌舞伎座店、松屋銀座店、渋谷西武、現在4店舗にて展開中。
「20年間、いろんな店でいろいろ見てきました。そして、おいしいものを作りたい、これまでにないものを作りたい、と思うと、これはやっぱり自分のお店をもつしかないかなと思ったんです」。諏合氏は、和菓子の道に入ってちょうど20年目に、自分の店をもつ決意をした。
しかし、和菓子の世界ではいくら腕があっても、客を連れて独立することはできない。ヘアサロンの人気スタイリストが、自分の客を連れて独立するのとは、わけが違う。和菓子を購入する客は、○○屋の××を支持しているのであって、その商品を作る職人が誰なのかは知るはずもない。
喫茶店を併設して客を呼び込んだ
長く業界にいたとはいえ、自分の店をもつにあたっては、苦労が絶えなかった。
テナントを探したが、不動産屋の信用が得られず、なかなかいい物件を紹介してもらえない。探し始めて半年後、やっとこれという物件に出合ったのが現在の本店、広尾だった。
色とりどりの商品が所狭しと並んでいる。ひとつひとつに手書きのポップがあたたかい。
当時は、恵比寿ガーデンプレイスができて2、3年経った頃で、明治通りは今のような華やかさはなく、工事ばかりしていたが、広尾は言葉の響きがいいと即断した。
オープンはしてみたものの、見たこともない和菓子店に足を止める人はいなかった。最初は日に3人ぐらいのお客さんが来る程度だった。
まずは、近所でかわいがられる店になりたいと考え、ともかく店に足を踏み入れてもらう手段として、店舗内に喫茶店をオープンした。ゆっくりとくつろいでもらえる場所を提供することで顔なじみになってもらい、自分の思いも伝えていきたいと考えた。喫茶店ではランチも提供していたので、顔なじみのお客さんが増えてきた。
手が回りきらないようになり、喫茶店は5、6年で閉じたが、その時には近所の常連さんから「閉鎖しないで!」とクレームをいただくほどになっていた。
順風満帆にきたようにみえる正庵だが、諏合氏によると、「4、5年目ぐらいのときには、やめようかと思った」という。とくになにか事件があったわけではないが、同店の定番の「あんず大福」はひとつ160円、客が増えるほどに売り上げは伸びなかった。
「和菓子の業界は、オープンしたからといって上り坂だと感じたことはありません。せいぜい平坦かな、と思えるくらいのほんのちょっとしたのぼりです。だから老舗が強い業界なんだと思います。でも、新しい店にしかできないこともあります」と商品開発について話してもらった。
老舗にはできないことにチャレンジできる強み
今は同店の定番商品となっている「あんず大福」も発売当初から売れたわけではない。見たことのない組み合わせに、興味は示されるものの、とりあえず無難な商品を買っていく客のほうが多かった。
「うちでは、販売の子には製作もしてもらいます。ぼく自身経営と販売を担当しています。小さい会社だからみんなに2つの仕事をしてもらいたい、と話してます」
しかし、新しいことにチャレンジできるのが歴史のない和菓子屋の特権。
「老舗では新しい商品はなかなか出せません。もし失敗したら、看板を汚すことになるからです。長い時間かけて培ってきた信頼に傷つけることはないか、慎重に判断しなければなりません。
しかし、我々には失うものはありません。どんなチャレンジもできることが強みです。オープン当初は、毎月新商品を出していました。ぼくは美味しいものしか作りませんよ。そこは自信があります。でも定番になるかどうかというと、話は別です。次来たときに、買ってもらえる商品にならないといけません。時間がかかることですから、定番になるまでどれだけの時間と費用をかけられるのか、これは経営者として判断しなければなりません。
また、作り手としては、ずっと先が見えていないといけませんが、商品は前に進みすぎてはお客さんに認めてもらえない。お客さんが求めるものの、ほんの少し先を提案するような商品作りを心がけています」
広尾でかわいがられる正庵に
同店の和菓子は、保存料など一切入っていないので、賞味期限が当日限りのものも多い。だから、「我々の商売は、地元でかわいがられないとムリ」と、諏合氏はいう。
オープン当初は、「これ、おいしくなかったよ」「包装がちょっと…三点』といろんなことを言われた。
「でも、そうやって意見してくれるお客さんはありがたいんです。
ぼく自身、応援したいと思う店には、『もっとこうしたら』と言うし、言ったからには続けて通います。ここは大手さんがやってるから言っても現場ではなんともならないな、と思うと言わないし、もう行くことはありません。
広尾には、1店舗でがんばってる店がたくさんあります。広尾の人たちは手厳しいけれど、ちゃんとお金を使ってくれる。だからありがたいんです。商売というのは、応援してくれる人がどれだけいるかだと思います。
今では、新商品を出すと『おたくのはどれを食べてもおいしいから』と買っていってくださる常連さんがたくさんいます。信用していただけているのは、うれしいことです」。
正庵は無事に10年目を迎えることができ、いま、分岐点にいる。今なら、コンビニに商品提供し、一気に事業拡大することも検討の範疇にある。しかし、販売と経営を担当している諏合氏には、常連客の顔が見えている。
「和菓子は多店舗展開すると、『ここにもあるのね』と歓迎されない風潮があるんです。いまは販売現場にいるので、来店してくださるお客様との関係を大事にしたいという気持ちも強いし、もっとたくさんの人にうちの商品を食べてもらいたい、とも思います。今のままでは一生車も買えませんからねぇ」。正庵の今後の展開が楽しみだ。
【店舗情報】
果匠 正庵
本店住所 東京都渋谷区広尾1-9-20
営業時間 年中無休 月~土 10:00~19:00 日・祝日 10:30~17:00
TEL&FAX 03-3441-1822
URL http://www.show-an.com
果匠正庵の店主、諏合正朗氏は、静岡県静岡市の中華料理店に3人兄弟の次男として生まれた。両親は、三人で仲良く店を継いで欲しいと、三人の役割分担も想定していたが、諏合氏は、両親の反対を押しやって、18歳で和菓子の道に入った。
果匠正庵 店主 諏合正朗氏。「正庵」は、正という字は諏合氏の名前の正朗から。「正」は五画、五感で楽しんでいただける和菓子を、「庵」くつろいで召し上がっていただきたいと考えてつけた。あわててひとりで考えた名前で、そば屋のようだったかなと思ったが、その後、お寺の住職にいい名前だとほめられ安心した、と。和菓子を選んだきっかけは、「実家の向かいにあった駄餅屋さんのうぐいすです。小さい頃から大好きでした。なんておいしいんだろう。自分もこんなのを作りたいとずっと思っていました。高校を卒業するとき、自分の仕事を何にするかと考えたとき、やっぱりこれをやりたいと思ったんです」という。
今も正庵のうぐいすには、「当店の起点」と説明が添えられている。
20年の修業生活を終え、広尾で開業
最初に修業に入ったのは、静岡県島田市の清水屋だった。その後、店は転々としたが、この業界を離れることはなかった。
「ぼくはプライドが高いし、生意気でわがまま。こんな性格だから、よく上ともめました」という。腕には自信があった。「自信がある」と自分で口にすることはしなかったが、自信があるから、「こうしたい」というアイデアが出てくる。
本店は、明治通り広尾1丁目交差点から渋谷に向かい、右手ひとつ目の角にある。ほか、東銀座の歌舞伎座店、松屋銀座店、渋谷西武、現在4店舗にて展開中。「20年間、いろんな店でいろいろ見てきました。そして、おいしいものを作りたい、これまでにないものを作りたい、と思うと、これはやっぱり自分のお店をもつしかないかなと思ったんです」。諏合氏は、和菓子の道に入ってちょうど20年目に、自分の店をもつ決意をした。
しかし、和菓子の世界ではいくら腕があっても、客を連れて独立することはできない。ヘアサロンの人気スタイリストが、自分の客を連れて独立するのとは、わけが違う。和菓子を購入する客は、○○屋の××を支持しているのであって、その商品を作る職人が誰なのかは知るはずもない。
喫茶店を併設して客を呼び込んだ
長く業界にいたとはいえ、自分の店をもつにあたっては、苦労が絶えなかった。
テナントを探したが、不動産屋の信用が得られず、なかなかいい物件を紹介してもらえない。探し始めて半年後、やっとこれという物件に出合ったのが現在の本店、広尾だった。
色とりどりの商品が所狭しと並んでいる。ひとつひとつに手書きのポップがあたたかい。当時は、恵比寿ガーデンプレイスができて2、3年経った頃で、明治通りは今のような華やかさはなく、工事ばかりしていたが、広尾は言葉の響きがいいと即断した。
オープンはしてみたものの、見たこともない和菓子店に足を止める人はいなかった。最初は日に3人ぐらいのお客さんが来る程度だった。
まずは、近所でかわいがられる店になりたいと考え、ともかく店に足を踏み入れてもらう手段として、店舗内に喫茶店をオープンした。ゆっくりとくつろいでもらえる場所を提供することで顔なじみになってもらい、自分の思いも伝えていきたいと考えた。喫茶店ではランチも提供していたので、顔なじみのお客さんが増えてきた。
手が回りきらないようになり、喫茶店は5、6年で閉じたが、その時には近所の常連さんから「閉鎖しないで!」とクレームをいただくほどになっていた。
順風満帆にきたようにみえる正庵だが、諏合氏によると、「4、5年目ぐらいのときには、やめようかと思った」という。とくになにか事件があったわけではないが、同店の定番の「あんず大福」はひとつ160円、客が増えるほどに売り上げは伸びなかった。
「和菓子の業界は、オープンしたからといって上り坂だと感じたことはありません。せいぜい平坦かな、と思えるくらいのほんのちょっとしたのぼりです。だから老舗が強い業界なんだと思います。でも、新しい店にしかできないこともあります」と商品開発について話してもらった。
老舗にはできないことにチャレンジできる強み
今は同店の定番商品となっている「あんず大福」も発売当初から売れたわけではない。見たことのない組み合わせに、興味は示されるものの、とりあえず無難な商品を買っていく客のほうが多かった。
「うちでは、販売の子には製作もしてもらいます。ぼく自身経営と販売を担当しています。小さい会社だからみんなに2つの仕事をしてもらいたい、と話してます」しかし、新しいことにチャレンジできるのが歴史のない和菓子屋の特権。
「老舗では新しい商品はなかなか出せません。もし失敗したら、看板を汚すことになるからです。長い時間かけて培ってきた信頼に傷つけることはないか、慎重に判断しなければなりません。
しかし、我々には失うものはありません。どんなチャレンジもできることが強みです。オープン当初は、毎月新商品を出していました。ぼくは美味しいものしか作りませんよ。そこは自信があります。でも定番になるかどうかというと、話は別です。次来たときに、買ってもらえる商品にならないといけません。時間がかかることですから、定番になるまでどれだけの時間と費用をかけられるのか、これは経営者として判断しなければなりません。
また、作り手としては、ずっと先が見えていないといけませんが、商品は前に進みすぎてはお客さんに認めてもらえない。お客さんが求めるものの、ほんの少し先を提案するような商品作りを心がけています」
広尾でかわいがられる正庵に
同店の和菓子は、保存料など一切入っていないので、賞味期限が当日限りのものも多い。だから、「我々の商売は、地元でかわいがられないとムリ」と、諏合氏はいう。
オープン当初は、「これ、おいしくなかったよ」「包装がちょっと…三点』といろんなことを言われた。
「でも、そうやって意見してくれるお客さんはありがたいんです。
ぼく自身、応援したいと思う店には、『もっとこうしたら』と言うし、言ったからには続けて通います。ここは大手さんがやってるから言っても現場ではなんともならないな、と思うと言わないし、もう行くことはありません。
広尾には、1店舗でがんばってる店がたくさんあります。広尾の人たちは手厳しいけれど、ちゃんとお金を使ってくれる。だからありがたいんです。商売というのは、応援してくれる人がどれだけいるかだと思います。
今では、新商品を出すと『おたくのはどれを食べてもおいしいから』と買っていってくださる常連さんがたくさんいます。信用していただけているのは、うれしいことです」。
正庵は無事に10年目を迎えることができ、いま、分岐点にいる。今なら、コンビニに商品提供し、一気に事業拡大することも検討の範疇にある。しかし、販売と経営を担当している諏合氏には、常連客の顔が見えている。
「和菓子は多店舗展開すると、『ここにもあるのね』と歓迎されない風潮があるんです。いまは販売現場にいるので、来店してくださるお客様との関係を大事にしたいという気持ちも強いし、もっとたくさんの人にうちの商品を食べてもらいたい、とも思います。今のままでは一生車も買えませんからねぇ」。正庵の今後の展開が楽しみだ。
【店舗情報】
果匠 正庵
本店住所 東京都渋谷区広尾1-9-20
営業時間 年中無休 月~土 10:00~19:00 日・祝日 10:30~17:00
TEL&FAX 03-3441-1822
URL http://www.show-an.com



