2008年01月31日更新
<1月号特集>名物園長・小菅正夫の「経営再建術」

今でこそブームに沸く旭山動物園だが、実は1967年のオープンから入園不振による経営難との闘いが続いていた。年数を重ねるごとに入園者数が減少、遊戯施設の増設などで盛り返すも一時しのぎに終わる。ついに、入園者数が年間20万人台まで落ち込み、廃園の声が上がった。その危機を救ったのは、小菅正夫園長をはじめとする飼育係のアイデアと行動力だった。
動物の生態を生かしたユニークな展示方法
地上17mの擬木の上部に結びつけられた長いロープ。その下ではたくさんの観客が、オランウータンの「もぐもぐタイム」(食事)が始まるのを今か今かと待ち構えている。一方の木にえさが取り付けられると、オランウータンが待ってましたとばかりにもう一方の木を登っていき、ロープにぶら下がりながら、軽々と空中散歩をしてえさを取りに行く。
さる山は、上からも下からも見ることができる立体展示。
オランウータンが頭上を渡っていく様子をかたずを呑んで見上げていた多くの観衆から「オーッ」という驚きの声が響きわたる。この光景は、ジャングルでは樹上生活をしているオランウータンの生態をうまく利用して実現した、今までの動物園にはなかった手法だ。
このように動物の習性を見せる「行動展示」が人々の心を捉え、北海道の地方都市の小規模な「旭山動物園」に、年間300万人以上もの入園者を呼び寄せている。茨城県から来た家族連れは、「ほかの動物園よりも動物が生き生きとしているように感じます」と興奮を隠さない。旭山動物園は今や、夏期の入園者数で東京の上野動物園を超えるほどの人気ぶりである。

飼育係が入園者にじかに話しかける
大盛況を収めている旭山動物園だが、現在の園長である小菅正夫氏が飼育係長になった86年当時は、入園者数の減少に悩まされていた。それまでは入園者数が落ち込むと、“カンフル剤”として園内にメリーゴーランドやジェットコースターなどの遊戯施設を作り、盛り返しを図っていた。
ぺんぎん館は、水中にトンネルが配されており、上を泳ぐ様子が見られる。
しかし、“カンフル剤”の効力は一時的であり、旭川市役所内部からは廃園の声も上がり始めた。小菅園長が当時を振り返る。
「市の幹部から、『このままだと旭山動物園はだめになる。飼育係長になった小菅君のやり方で動物園を変えてくれ』と言われました」
当時の小菅園長は、単なる動物好きの獣医。入園者が減ってきていることは何となく気づいていたが、動物園がつぶれてしまうといった危機感は抱いていなかった。
「飼育係の仕事というのは、我を忘れるくらいおもしろい。僕たちが接している動物の世界はあんなにおもしろいのに、なぜ、お客さんが減ってしまうんだろう」
円形ガラスの通路からチンパンジーの姿を間近に見られる。
そう疑問に思った小菅園長は、園内を見回って、ハタと膝をたたいた。動物園では、飼育係がいちばん内側にいて、その外側に動物がいる。さらにその外側で客が見物している。
つまり動物たちは、飼育係の方ばかりを見て、客にはお尻を向けていたのだ。これでは、動物の表情も分からず、見ていておもしろくない。
そこで、小菅園長は飼育係が客の前に立って動物の話をする「ワンポイントガイド」を始めることを提案した。そうすれば動物たちが客の方を向くうえに、飼育員が一般にはあまり知られていない動物の生態を話すことによって、興味をかき立てるのが狙いだ。
しかし、飼育係のなかには、口べたな人もいる。反対の声も出た。「人との会話が苦手だから飼育係になったとはっきり言う係員もいました。だったら、しゃべらずに、動物のおもしろさが伝わるように工夫してみればいいと勧めたのです」(小菅園長)
チンパンジーの剥製と骨を一緒に見せて、骨がどのような形になっているかを展示。
ある飼育係は、ゾウの前にスイカを置いて、「さて、ゾウはどうやってこのスイカを食べるのでしょう」と言って、奥に引っ込んだ。すると、ゾウは最初、鼻でスイカをつかみ、口に運んで丸ごと食べようとするが食べられない。そこで、脚で踏んでぶしてから食べようとしている。
見ていると、一気に踏みつぶすのではなく、徐々に力を加えながらつぶして食べた。この様子を見せるだけで約30分のワンポイントガイドの時間が終わる。
最後に飼育係が登場して言う。「もしもスイカの中に釘のようなものがあって、脚にそれが刺さったら、ゾウはやがて死んでしまいます。ゆっくり踏むのは中に危険なものがないかを確かめているから。これこそゾウが生きていくための知恵なのです」。それを聞いた観客から拍手が湧き起こる。ゾウの生態の一端を見事に物語る演出だ。
もう1つ、斬新だったのが手書きの説明ボード。動物の生態を紹介するボードを作って展示した。なかには、動物の毛をじかにさわれるように貼ったものもある。硬そうに見える毛が意外にやわらかいことが分かるなど、人間の五感に訴える演出である。
理想の動物園の追求に向けプロジェクトチームを作る
旭山動物園の数々の魅力的なアイデアは、10年以上前に発足した「理想の動物園プロジェクトチーム」から生み出された。当時の園長である菅野浩氏の呼びかけで始まった週1回の会議である。スタート時は、小菅飼育係長と先輩の牧田雄一郎飼育係、坂東元飼育係(現・副園長)、あべ弘士飼育係の4人がメンバー。あべ弘士氏は、のちに絵本作家として有名になり、旭山動物園に関する様々な商品のデザインを手がけている。
冬の動物園の入園者を増やすきっかけを作った「ペンギンの散歩」。
「どうすれば、動物のおもしろさをお客さんに分かってもらえるか。もし、お金があったならどんな施設にしたいか。みんなで徹底的に討論しました。また、市民やマスコミをいかに味方にするかなども話し合いました。その会議で出てきたアイデアを、あべ弘士氏がスケッチにまとめるということを繰り返しました。夢の動物園を作るアイデアは尽きませんでしたね」(小菅園長)
ユニークなアイデアが出るたびに、企画書にまとめて市役所へ提出したものの、予算が少ない市役所からは見向きもされない。小菅氏が園長になる95年までずっと企画書を出し続けたが、すべてなしのつぶて。そんな折、テーマパークづくりを公約に掲げて当選した新市長が就任してから予算がつくようになり、少しずつアイデアが形となっていった。
「プロジェクトチームでは、従来の動物園のイメージとはかけ離れた行動展示のことばかり考えていましたから、時には、『なぜ、こんな突拍子もない施設を考えついたのか』と他の動物園関係者が感心したこともありました。今から思えば、この考える時間を長く持てたことが非常にプラスとなっています」(同)
夜の動物園とペンギンの散歩
夏季限定で〝夜の動物園.を始めたのは、20年前。きっかけは、「なんだ、ライオンはいつも寝てばっかりじゃないか」と言う客の声を聞いたことだ。夜間に活動する夜行性動物は、昼間はじっと横になったまま過ごし、夕方になってから元気になる。そこで、夏場には夜も開園したところ、ライオンなど夜行性動物が活発に動き回る姿が見られると評判を呼んだ。
夏の間に開催されている「夜の動物園」では、夕方に活動が活発化する動物の姿を見ることができる。
99年からは冬の営業も開始。午前10時半から午後3時半までの短時間にもかかわらず、昨年は11月3日から3月31日までに75万人以上の入園者を集めた。積雪が約6.7mに達し、冬(12月.2月)の平均気温がマイナス6.4度と日本一寒いといわれる旭川の地で驚異的な集客力を誇る。
「ある時、市の職員から『動物園はいいなぁ。冬場は、閉園しているから暇でしょう』と言われました。でも、閉園しているからといって、動物たちをどこか別の所に預けているわけではなく、どんなに寒くても、毎日の世話が欠かせません。口で説明するよりも、冬の動物園がいかに大変なのかを見せてやろうと『冬の動物園見学会』を催しました。それが大好評で、年々、見学希望者が増え、冬も開園するようになったのです」(小菅園長)
園内は無料バスとシルバーシャトル(高齢者・身障者優先)が走っている。バスは地元企業から寄付されたものだ。
しかし、冬の開園はすんなり実現したわけではない。まず市から予算が出ない。頭を抱えた小菅園長は国の「緊急地域雇用対策事業」に応募した。雇用率が悪い地域に助成金を出すというこの制度を使って、1300万円の予算を確保できた。この制度を活用して、2年間、冬の開園を行なって実績を上げたことが認められ、旭川市の予算がつくようになり、本格的な冬期営業へと踏み切った。
冬の名物は、ペンギンの散歩だが、これも無理して歩かせているわけではない。冬場に元気なペンギンたちは運動したくてむずむずしている。開園していない時でも、飼育係が散歩をさせていた。その様子を客に見せたところ、「かわいい」と人気に火がついた。今では、国内ばかりでなく、マレーシア、シンガポール、台湾などから、冬の動物園を見に来る観光客が増えている。
不利な条件でさえも逆転の発想で生かす
「全国の動物園を見て歩きましたが、旭山動物園のように斜面に造成されている動物園は、ありませんでした。正直なところ、こんな場所になぜ造ったのかと疑問に思いましたよ。飼育係長だった当時も、お客さんが来ないのはこんな斜面だと歩き疲れて楽しめないからではないかと思っていました。しかし、行動展示をするには、斜面の方がかえって都合がいいと気づいのです」(小菅園長)
旭山動物名が入ったおみやげは、売り上げを大きく伸ばしている。
数ある生き物のうち、2次元の範囲内でしか行動しないのは人間くらい。水中にもぐるとか、地中に入るとか、木に登るとか、3次元で行動する動物の方が圧倒的に多い。不利だと思っていた斜面も上手に使えば、3次元の行動展示に最も適した立地であることに小菅園長は気づいたのだ。
東門にある「旭川物産販売」が経営をしているおみやげ店。
旭山の施設は、2層か3層の構造が多い。下から施設に入り、立体的な展示を見ながら上って、地上に出るという構造になっている。行動展示をすることで、不利な立地条件を逆に生かすことができたのである。
まさに、逆転の発想だ。お金がないこともいい方向に作用した。少ない予算の中で、いかにいいものを作るかを数多く学んだからだ。例えば、オランウータンの空中散歩施設は、当初、数億円が必要といわれた。そんな資金はない。そこで、地元の建設業者と話し合って材料を工夫するなどして、4300万円で完成させた。
また、多くの動物園ではコンサルタント会社に発注して施設を作っているが、旭山動物園では、飼育係が自ら企画を練るためコンサルタント費用が必要ない。しかも、各飼育係がワンポイントガイドなどの経験から生み出す企画はどれもこれも斬新で、少ない予算でより楽しい施設を作ることに大に貢献した。
中小企業は、何をやるにしても予算に限りがある。それを乗り切るには、アイデアがいちばん大切なことを旭山動物園は示唆している。
次へ>>旭山動物園の行動展示
地上17mの擬木の上部に結びつけられた長いロープ。その下ではたくさんの観客が、オランウータンの「もぐもぐタイム」(食事)が始まるのを今か今かと待ち構えている。一方の木にえさが取り付けられると、オランウータンが待ってましたとばかりにもう一方の木を登っていき、ロープにぶら下がりながら、軽々と空中散歩をしてえさを取りに行く。
さる山は、上からも下からも見ることができる立体展示。オランウータンが頭上を渡っていく様子をかたずを呑んで見上げていた多くの観衆から「オーッ」という驚きの声が響きわたる。この光景は、ジャングルでは樹上生活をしているオランウータンの生態をうまく利用して実現した、今までの動物園にはなかった手法だ。
このように動物の習性を見せる「行動展示」が人々の心を捉え、北海道の地方都市の小規模な「旭山動物園」に、年間300万人以上もの入園者を呼び寄せている。茨城県から来た家族連れは、「ほかの動物園よりも動物が生き生きとしているように感じます」と興奮を隠さない。旭山動物園は今や、夏期の入園者数で東京の上野動物園を超えるほどの人気ぶりである。

飼育係が入園者にじかに話しかける
大盛況を収めている旭山動物園だが、現在の園長である小菅正夫氏が飼育係長になった86年当時は、入園者数の減少に悩まされていた。それまでは入園者数が落ち込むと、“カンフル剤”として園内にメリーゴーランドやジェットコースターなどの遊戯施設を作り、盛り返しを図っていた。
ぺんぎん館は、水中にトンネルが配されており、上を泳ぐ様子が見られる。しかし、“カンフル剤”の効力は一時的であり、旭川市役所内部からは廃園の声も上がり始めた。小菅園長が当時を振り返る。
「市の幹部から、『このままだと旭山動物園はだめになる。飼育係長になった小菅君のやり方で動物園を変えてくれ』と言われました」
当時の小菅園長は、単なる動物好きの獣医。入園者が減ってきていることは何となく気づいていたが、動物園がつぶれてしまうといった危機感は抱いていなかった。
「飼育係の仕事というのは、我を忘れるくらいおもしろい。僕たちが接している動物の世界はあんなにおもしろいのに、なぜ、お客さんが減ってしまうんだろう」
円形ガラスの通路からチンパンジーの姿を間近に見られる。そう疑問に思った小菅園長は、園内を見回って、ハタと膝をたたいた。動物園では、飼育係がいちばん内側にいて、その外側に動物がいる。さらにその外側で客が見物している。
つまり動物たちは、飼育係の方ばかりを見て、客にはお尻を向けていたのだ。これでは、動物の表情も分からず、見ていておもしろくない。
そこで、小菅園長は飼育係が客の前に立って動物の話をする「ワンポイントガイド」を始めることを提案した。そうすれば動物たちが客の方を向くうえに、飼育員が一般にはあまり知られていない動物の生態を話すことによって、興味をかき立てるのが狙いだ。
しかし、飼育係のなかには、口べたな人もいる。反対の声も出た。「人との会話が苦手だから飼育係になったとはっきり言う係員もいました。だったら、しゃべらずに、動物のおもしろさが伝わるように工夫してみればいいと勧めたのです」(小菅園長)
チンパンジーの剥製と骨を一緒に見せて、骨がどのような形になっているかを展示。ある飼育係は、ゾウの前にスイカを置いて、「さて、ゾウはどうやってこのスイカを食べるのでしょう」と言って、奥に引っ込んだ。すると、ゾウは最初、鼻でスイカをつかみ、口に運んで丸ごと食べようとするが食べられない。そこで、脚で踏んでぶしてから食べようとしている。
見ていると、一気に踏みつぶすのではなく、徐々に力を加えながらつぶして食べた。この様子を見せるだけで約30分のワンポイントガイドの時間が終わる。
最後に飼育係が登場して言う。「もしもスイカの中に釘のようなものがあって、脚にそれが刺さったら、ゾウはやがて死んでしまいます。ゆっくり踏むのは中に危険なものがないかを確かめているから。これこそゾウが生きていくための知恵なのです」。それを聞いた観客から拍手が湧き起こる。ゾウの生態の一端を見事に物語る演出だ。
もう1つ、斬新だったのが手書きの説明ボード。動物の生態を紹介するボードを作って展示した。なかには、動物の毛をじかにさわれるように貼ったものもある。硬そうに見える毛が意外にやわらかいことが分かるなど、人間の五感に訴える演出である。
理想の動物園の追求に向けプロジェクトチームを作る
旭山動物園の数々の魅力的なアイデアは、10年以上前に発足した「理想の動物園プロジェクトチーム」から生み出された。当時の園長である菅野浩氏の呼びかけで始まった週1回の会議である。スタート時は、小菅飼育係長と先輩の牧田雄一郎飼育係、坂東元飼育係(現・副園長)、あべ弘士飼育係の4人がメンバー。あべ弘士氏は、のちに絵本作家として有名になり、旭山動物園に関する様々な商品のデザインを手がけている。
冬の動物園の入園者を増やすきっかけを作った「ペンギンの散歩」。「どうすれば、動物のおもしろさをお客さんに分かってもらえるか。もし、お金があったならどんな施設にしたいか。みんなで徹底的に討論しました。また、市民やマスコミをいかに味方にするかなども話し合いました。その会議で出てきたアイデアを、あべ弘士氏がスケッチにまとめるということを繰り返しました。夢の動物園を作るアイデアは尽きませんでしたね」(小菅園長)
ユニークなアイデアが出るたびに、企画書にまとめて市役所へ提出したものの、予算が少ない市役所からは見向きもされない。小菅氏が園長になる95年までずっと企画書を出し続けたが、すべてなしのつぶて。そんな折、テーマパークづくりを公約に掲げて当選した新市長が就任してから予算がつくようになり、少しずつアイデアが形となっていった。
「プロジェクトチームでは、従来の動物園のイメージとはかけ離れた行動展示のことばかり考えていましたから、時には、『なぜ、こんな突拍子もない施設を考えついたのか』と他の動物園関係者が感心したこともありました。今から思えば、この考える時間を長く持てたことが非常にプラスとなっています」(同)
夜の動物園とペンギンの散歩
夏季限定で〝夜の動物園.を始めたのは、20年前。きっかけは、「なんだ、ライオンはいつも寝てばっかりじゃないか」と言う客の声を聞いたことだ。夜間に活動する夜行性動物は、昼間はじっと横になったまま過ごし、夕方になってから元気になる。そこで、夏場には夜も開園したところ、ライオンなど夜行性動物が活発に動き回る姿が見られると評判を呼んだ。
夏の間に開催されている「夜の動物園」では、夕方に活動が活発化する動物の姿を見ることができる。99年からは冬の営業も開始。午前10時半から午後3時半までの短時間にもかかわらず、昨年は11月3日から3月31日までに75万人以上の入園者を集めた。積雪が約6.7mに達し、冬(12月.2月)の平均気温がマイナス6.4度と日本一寒いといわれる旭川の地で驚異的な集客力を誇る。
「ある時、市の職員から『動物園はいいなぁ。冬場は、閉園しているから暇でしょう』と言われました。でも、閉園しているからといって、動物たちをどこか別の所に預けているわけではなく、どんなに寒くても、毎日の世話が欠かせません。口で説明するよりも、冬の動物園がいかに大変なのかを見せてやろうと『冬の動物園見学会』を催しました。それが大好評で、年々、見学希望者が増え、冬も開園するようになったのです」(小菅園長)
園内は無料バスとシルバーシャトル(高齢者・身障者優先)が走っている。バスは地元企業から寄付されたものだ。しかし、冬の開園はすんなり実現したわけではない。まず市から予算が出ない。頭を抱えた小菅園長は国の「緊急地域雇用対策事業」に応募した。雇用率が悪い地域に助成金を出すというこの制度を使って、1300万円の予算を確保できた。この制度を活用して、2年間、冬の開園を行なって実績を上げたことが認められ、旭川市の予算がつくようになり、本格的な冬期営業へと踏み切った。
冬の名物は、ペンギンの散歩だが、これも無理して歩かせているわけではない。冬場に元気なペンギンたちは運動したくてむずむずしている。開園していない時でも、飼育係が散歩をさせていた。その様子を客に見せたところ、「かわいい」と人気に火がついた。今では、国内ばかりでなく、マレーシア、シンガポール、台湾などから、冬の動物園を見に来る観光客が増えている。
不利な条件でさえも逆転の発想で生かす
「全国の動物園を見て歩きましたが、旭山動物園のように斜面に造成されている動物園は、ありませんでした。正直なところ、こんな場所になぜ造ったのかと疑問に思いましたよ。飼育係長だった当時も、お客さんが来ないのはこんな斜面だと歩き疲れて楽しめないからではないかと思っていました。しかし、行動展示をするには、斜面の方がかえって都合がいいと気づいのです」(小菅園長)
旭山動物名が入ったおみやげは、売り上げを大きく伸ばしている。数ある生き物のうち、2次元の範囲内でしか行動しないのは人間くらい。水中にもぐるとか、地中に入るとか、木に登るとか、3次元で行動する動物の方が圧倒的に多い。不利だと思っていた斜面も上手に使えば、3次元の行動展示に最も適した立地であることに小菅園長は気づいたのだ。
東門にある「旭川物産販売」が経営をしているおみやげ店。旭山の施設は、2層か3層の構造が多い。下から施設に入り、立体的な展示を見ながら上って、地上に出るという構造になっている。行動展示をすることで、不利な立地条件を逆に生かすことができたのである。
まさに、逆転の発想だ。お金がないこともいい方向に作用した。少ない予算の中で、いかにいいものを作るかを数多く学んだからだ。例えば、オランウータンの空中散歩施設は、当初、数億円が必要といわれた。そんな資金はない。そこで、地元の建設業者と話し合って材料を工夫するなどして、4300万円で完成させた。
また、多くの動物園ではコンサルタント会社に発注して施設を作っているが、旭山動物園では、飼育係が自ら企画を練るためコンサルタント費用が必要ない。しかも、各飼育係がワンポイントガイドなどの経験から生み出す企画はどれもこれも斬新で、少ない予算でより楽しい施設を作ることに大に貢献した。
中小企業は、何をやるにしても予算に限りがある。それを乗り切るには、アイデアがいちばん大切なことを旭山動物園は示唆している。
次へ>>旭山動物園の行動展示



