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2007年12月06日更新

<VLレポート>バイオ燃料

バイオ燃料の光と影

化石燃料の代替エネルギーとして世界各国で注目されているバイオ燃料。国内でも一部のガソリンスタンドで販売が始まるなど、すでに普及への取り組みが進んでいる。一方で、その余波を受けてトウモロコシなど穀物の価格が高騰し波紋が広がる。食料自給率が40%前後の日本で穀物類をエネルギーに転用するのは、はたして得策なのか――。

今年4月から首都圏中心に商品化の第一歩を踏み出す

首都圏を中心とした50カ所のガソリンスタンドで、植物から抽出したエタノールをブレンドしたバイオガソリンの販売が始まった。石油元売り最大手である新日本石油(東京都港区)が展開するガソリンスタンド「ENEOSドクター・ドライブセルフ環七堀之内店」(東京都杉並区)は、その1つだ。

給油機はタッチパネル式給油機はタッチパネル式。レギュラー(バイオガソリン)を選ぶと、画面に商品説明が表示される(ENEOSドクター・ドライブセルフ環七堀之内店)。



同店ではレギュラーガソリンのすべてをバイオガソリンに切り替えた。都内屈指の交通量の道路に面しているとあって、給油に立ち寄る車が途切れない。スタンド内では、環境にやさしいというバイオガソリンの特性を知らせる看板が目立ち、給油機には「当店のレギュラーガソリンは、バイオガソリンです」と大きく表示している。

自分で給油機を操作するセルフサービス式なので、まず来店客はパネルに触れてハイオクかレギュラーかを選ぶ。レギュラーを選ぶと、同店で扱っているバイオガソリンの商品説明が瞬時に画面表示される。トウモロコシや小麦、米などの穀物に含まれるでん粉、サトウキビに含まれる糖分などから作られるバイオエタノールというアルコール燃料と、イソブテンという石油ガスを合わせた「ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」という成分を、来のガソリンに7%ほど混合しているという説明だ。

ステッカーなどを使った販促ステッカーなどを使った販促効果により、バイオガソリンの認知度は徐々に上がっている。(ENEOSドクター・ドライブセルフ環七堀之内店)






同店のマネージャーである大畑一樹氏は、「バイオガソリンを販売していることが話題となり、発売した4月から来店客が増えてきました」と実感を話す。杉並区の清掃事務局との業務提携も決まり、販売促進用のステッカーやリーフレットを配布した効果も表れ、「知名度は徐々に高まっています」(大畑氏)。

実際にバイオガソリンを購入した来店客の声は多様だ。営業車に給油した30代の会社員は、「将来は原油が少なくなるという話なので、それに代わる燃料は必要ですよね」と新燃料に期待を寄せる。「環境に配慮しているのはすばらしいけれど、普通のレギュラーガソリンと同じ値段では魅力が低いように思う」と価格に不満を持つ主婦もいた。

バイオ燃料の活用は、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出削減策として、世界中で関心を集めている。日本では、世界で力を合わせて温暖化防止を図る京都議定書で定められた削減目標の達成に何とか近づけようと、政府が2010年までに原油換算で50万klのバイオ燃料の導入目標を掲げている。実際の普及への先駆けともいえるのが、石油連盟が今年の4月から実験的に販売を始めたバイオガソリンだ。

これは政府の目標達成のため、経済産業省が石油業界に、50万klのうち20万klの導入を要請したもの。バイオガソリンは環境省が提唱する、ガソリンに直接バイオエタノールを3%混合する「E3(イースリー)」という方式と、石油連盟の扱う「バイオETBE」がある。石油連盟は品質の確保や、光化学スモッグなどの安全面を考慮し、後者の「バイオETBE」を推進している。原料はフランスなどから輸入しているそうだ。

バイオガソリンへの反響について、新日本石油の広報は「販売はおおむね好調」と説明する。苦情などはゼロだという。同社は現在、首都圏12カ所のガソリンスタンドでバイオガソリンを販売している。レギュラーガソリンをバイオガソリンに切り替えたガソリンスタンドでのレギュラーガソリンの販売量は、伸びていると同社の広報は語る。




二酸化炭素排出削減手段として期待されるバイオエタノール

そもそも、バイオ燃料とは何か。語源にあたるバイオマスは、02年12月に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」では「再生可能な、生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたもの」と定義されている。具体的には、植物や穀物、木材などから生産されるエネルギー全般を指す。

なかでも、ガソリンに代わる燃料として脚光を浴びているのが、バイオエタノールというアルコール燃料。CO2排出削減につながる理由は、燃やすと通常のガソリンと同様にCO2を排出するが、原料となる植物が成長の過程で大気中の二酸化炭素を吸収するため、燃焼時の排出量と〝差し引きゼロ.になるからだ。これはカーボン・ニュートラル(炭素循環量の中立)という考え方で、地球温暖化防止に役立つと期待されている。

世界的に普及が進んでいる国は、ブラジルとアメリカだ。ブラジルはサトウキビの生産大国ということもあり、国を挙げてバイオエタノールの普及拡大に力を入れている。05年には、年間1560万klのエタノールが生産され、ガソリンを燃料とする車両には20.25%のバイオエタノールの混合が義務づけられている。すべての車両がエタノールを25%混合するE25に対応し、好きな濃度で利用できるフレックス燃料車(FFV)も新車販売台数の70%を超えるほどのバイオ燃料先進国だ。

06年に石油依存からの脱却を表明したアメリカは、世界最大のトウモロコシ生産国であり、これを主な原料としてバイオエタノールの活用を進めている。05年時点で年間1660万klを生産、12年には普及量が2800万klに達する見通しだ。バイオエタノールを混合したガソリンへの免税措置、製造事業者への補助も盛んに行なわれている。

EU(欧州連合)ではドイツ、フランス、スペインで「バイオETBE」が販売され、スウェーデンではバイオエタノールをガソリンに5%混ぜた「E5(イーファイブ)」が売られている。10年には、輸送用燃料においてバイオ燃料が占める比率を5.75%に高める計画だ。また、フランスではバイオ燃料用の作物栽培について補助体制が整えられている。

日本では、バイオエタノールの実証実験が全国7カ所で進められている段階だ。北海道十勝地区ではトウモロコシと規格外小麦、沖縄県宮古島ではサトウキビ、北九州市では食品廃棄物を利用した実験が行なわれており、10年頃までは産官学による実験が続く予定だ。

市場調査会社の富士経済によると、日本のバイオエタノール市場は「まだ成熟していない」。その一方で、将来的には関連するプラントの市場と、バイオエタノールの市場の2つが拡大していくだろうと見る。「09年、10年くらいから、プラントが増えてくると見られます。50億円規模のプラントが2、3カ所完成すれば、12年時点で100億~150億円程度の市場規模に成長するでしょう」(富士経済の岸浦明信氏)




穀物価格の高騰で養鶏業者の倒産も

では、国際的ブームを呼ぶほど、いいことづくめに見えるバイオ燃料の普及と生産において、なぜ日本は後れをとっているのか。1つには、食料自給率の低さがある。バイオ燃料の先進国であるブラジルやアメリカ、またEU諸国は自給率が高く、国内で消費しない食料の一部を燃料に回しても特に問題はない。「アメリカやフランスはカロリーベースでの食料自給率が100%を超え、ドイツも90%以上。低いといわれるイギリスでも75%前後はあります。それに対して、日本は40%前後です」(富士経済の岸浦明信氏)。

日本では、燃料どころか食料とすべき穀物を自前でまかなうことすら到底できない。また、穀物の輸入には、船などの輸送時にエネルギーを費やし、二酸化炭素が排出される。穀物ではなく、抽出後のバイオエタノールの輸入にしても同じことだ。さらに、頻発する異常気象、地球温暖化などにより、世界規模で食料危機に見舞われるおそれがあると不安視されるなか、食料を燃料にすることの妥当性について議論が持ち上がっている。

そこで日本で注目されているのが、余剰作物の利用や、地域内で完結する資源循環の取り組み。その代表例が、アサヒビール(東京都中央区)と九州沖縄農業研究センター(熊本県合志市)の独自の開発研究をもとにした沖縄県伊江村での実証実験だ。

同実験では、村内の畑で1株当たりの茎量が多い特殊なサトウキビを栽培し、単位面積当たりの製糖量を確保しながら、従来に比べて約3倍のエタノールを製造する。それをガソリンに混ぜてバイオ燃料を精製し、村の公用車で使い、村内でのエネルギー循環を図っている。

アサヒビールでは「食料確保と競合しないようにしています。実証実験が終わる10年までに、製造モデルの確立と一層の効率化を進めたい」(広報)としている。

試験プラントの外観アサヒビールは1府(内閣)3省(農林水産、経済産業、環境)との連携プロジェクトとして、沖縄県伊江村でバイオエタノールの実証実験を進めている(写真は試験プラントの外観)。


食料確保と競合せず、地産地消が実現すれば朗報だが、ここへ来てバイオ燃料の未来には、暗雲が垂れ込めてきた。世界的なバイオ燃料需要の影響で穀物市場が急騰し、さまざまな分野に悪影響を及ぼしているのだ。国内で特に深刻な打撃を受けているのが養鶏業者。飼料用トウモロコシの価格急騰が経営を圧迫しているからだ。

民間信用調査会社の東京商工リサーチ(東京都港区)によると、今年1~7月の養鶏業倒産件数(負債額1千万円以上)は前年同期比160%増の13件に上った。負債総額は7月末時点で91億9000万円。オーストラリアでの小麦不作、中国での飼料需要の拡大などの要因もあるが、やはりアメリカでのバイオエタノール需要の拡大で、飼料用トウモロコシの価格が急騰したことが大きいという。

香川県の名産品、さぬきうどんも打撃を受けた。今年6月、「さぬきうどん協同組合」(香川県高松市)に加盟する15店が、うどんの原料である小麦粉の値上がり分を吸収しきれず、メニューの一部をそれぞれ10~15円ほど値上げした。価格が高騰して品薄になったトウモロコシの不足分を補うために、小麦粉が25キロ当たり50円ほど値上がりしたためだ。

そのほか、原材料のサトウキビがバイオエタノールに使用されたため、砂糖の値段も上がった。農業大国の豊富な食料からバイオエタノールが作られ、それがブームになった結果、穀物の価格が高騰し、日本の産業に暗い影を落としている。

沖縄県伊江村のサトウキビ畑沖縄県伊江村の実証実験では、通常のサトウキビよりもバイオマス収量が多い「高バイオマス量サトウキビ」が栽培されている。





「トウモロコシ、小麦、大豆の価格高騰という現状を目の当たりにすると、エネルギーへの転用と本来の食料としての利用のどちらが総合的に得策なのか、真剣に考えざるを得ません。日本は、選択の間で揺れているといえるでしょう」(富士経済の岸浦明信氏)

実際にバイオガソリンの販売が始まり、普及への期待が膨らみつつも、食料確保との兼ね合いを中心とした議論が渦巻く。ただ、将来的に枯渇する化石燃料の代替エネルギーが必要になることは論を待たない。代替燃料の本命がバイオ燃料であるかどうかは別として、現状では市場規模の拡大が予想されるだけに中小企業も無関心ではいられない。

各方面で進んでいる大規模な実証実験が一段落する10年頃には、日本におけるバイオ燃料の位置づけと方向性も見えてくるだろう。経済産業省は新エネルギー分野で技術革新にチャレンジするベンチャー企業への支援を強化する構えであり、代替エネルギーをめぐる動きは熱を帯びて行くと見られる。


文・橋口義彦(ハリーフッド)


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