2007年11月01日更新
工場で生産する野菜が売れている
工場の中で人工の光を当て、徹底的な衛生管理のもとで栽培される「工場野菜」。有機野菜とは対極的な栽培法ともいえるが、無農薬で安全、安心という点は同じだ。工場野菜は品質が均一で見た目も美しいとあって、高級スーパーや業務用を中心に出荷量を伸ばしている。
高級スーパーで主婦に根強い人気
小田急商事(東京都世田谷区)が展開する高級スーパー「Odakyu OX経堂店」(同)の青果売り場。「フリンジグリーン」「ノーチップ」など、おしゃれな名称のみずみずしいレタスが並ぶ。露地栽培される昔ながらの丸いレタスではなく、ほうれん草のように葉が目立つ1つひとつが透明ビニールで梱包された工場野菜だ。
価格は1袋198円。季節にもよるが、露地栽培のレタスよりも2~3割は高い。それでも、熱心に品定めをする買い物客の手が伸びる。購入した28歳の主婦は「子供にも安心して食べさせることができるので、いつもビニールパックの野菜を買っています」と話す。

工場野菜は無農薬栽培され、売り場に並ぶまでの過程がはっきりと分かる。生産、加工、流通の各過程と移動した経路を把握するトレーサビリティーが、近年、食品の安全確保のために注目を集めている。工場野菜はトレーサビリティーに優れていることも安全性を重視する消費者にとって大きな魅力だ。
Odakyu OXの青果グループでバイヤー(商品買い付け担当)を務める栗原教好氏は「工場野菜は社会的に認知され始めたと感じています。青果売り場でも、お客様の間ですっかり定着しているという手応えがあります」と実感を語る。
「消費者の間に工場野菜はすっかり定着した」と売り場の感触を話すOdakyu OXの青果グループの栗原教好氏。
2006年1月から本格的な販売を始めたところ、季節により若干の変動はあるものの、売り上げは順調に推移している。07年5月度の販売数量(全25店の合計)は8430個(リバーグリーン975個、ノーチップ2682個、フリンジグリーン4773個)で、販売金額は157万7549円。前年同期比約18%増を達成した。
「野菜全体におけるシェアはまだ1%にも達していませんが、安心で安全な野菜を求めるお客様からは積極的に支持されています」(栗原氏)
80年に栽培を開始したキユーピーが先駆け
露地栽培では自然の恵みを頼りに、土、水、太陽で育てるのに対して、工場野菜は土を使わず、人工の光のもとで計画的に生産される。肥料や水分、温度などをコンピューターで管理する野菜工場は低細菌状態に保たれ、農薬を使う必要性も少ない。このため安全性が高く、一定の品質を確保できる。光源には高圧ナトリウムランプ、発光ダイオード(LED)、蛍光灯などがある。栽培も発芽してからパレットに移植して育てる方法や、液肥を利用した水耕栽培など様々だ。
高級スーパーのOdakyu OXには、きれいにビニールパックされた野菜が並ぶ。
工場野菜の分野で先駆的な企業といえばキユーピー(東京都渋谷区)だ。80年にイチゴやキュウリなどの自社生産を開始、84年には高圧ナトリウムランプを使った野菜生産に着手し、89年から収穫した野菜の販売を始めた。
開発の第一線で指揮にあたってきた植物開発センター長の清澤正彦氏は、「マヨネーズやドレッシングは、野菜があってこその商品です。その野菜を安定的に生産する方法はないだろうかと考え、80年から工場野菜の開発を進めてきました」と説明する。
同社の野菜工場「TSファーム」は福島県白河市と茨城県猿島郡五霞町に2つの直営工場があるほか、全国12カ所の工場に技術・生産ノウハウを提供している。
「TSファーム」の光景は圧巻だ。工場内には三角形のパネルが配置され、斜面に葉もの野菜の一種である「フリルアイス」「リーフレタス」「サラダ菜」などがぎっしりと植えられている。光源に高圧ナトリウムランプを使い、水分や酸素、肥料を与えるのに独自の噴霧水耕のノウハウを確立しているのが大きな特徴だ。また、生産する葉もの野菜は一見するとレタスのようだが、従来の品種よりミネラルなどの栄養価が高く、葉肉が厚くて加熱料理に適しているなど、品質に優れる。
工場野菜が高級スーパーで売り上げを着実に伸ばしている要因は、消費者の安全志向の高まりにあるが、それだけではない。供給者側にもメリットがあるのだ。工場野菜は季節や天候に左右されない安定供給と一定価格での仕入れが可能であり、流通業者や小売店にとって経営面での旨みがある。
工場野菜の納入先は高級スーパーだけではない。レストランのサラダバー、サンドイッチや惣菜のサラダ巻きなどに加工される業務用野菜としても需要が伸びている。土を使わないため、十分に洗わなくても使える利便性が、レストランや加工業者から支持される理由の1つとなっている。
「例えばサンドイッチに使うレタス。洗浄して水切りをするには手間と時間がかかるうえ、余分な水分があると、サンドイッチの品質を落とすことになりかねません。工場野菜なそんな心配なく作業効率が上がり、品質も保てます。また、見た目がきれいなのでオードブルの添え物としても利用されています」と清澤センター長は業務用の需要拡大の背景を語る。
就労の場としても可能性が広がる
野菜工場は農村部で新たな就労の機会を作り出している。98年から稼働したキユーピー直営工場の「TSファーム白河」では約15人の従業員が働く。毎日約4500株の野菜を収穫しており、農業の経験がなくても勤められる新しい職場として、地域で認知され始めている。
寒冷地の農業にも新たな可能性を生み出した。キユーピーのノウハウを導入して野菜を生産する松代ハイテクファーム(新潟県松代市)は94年、廃校になった小学校を再利用して誕生した。豪雪地帯にもかかわらず、年間を通じて1日に約700株を収穫している。
このキユーピーの成功モデルに対し、後発の各企業も意気盛んだ。アグリビジネス市場でシェアの大部分を占めるのは食品・飲料系の企業で、他には99年に本格参入したカゴメ(名古屋市中区)が有名。異業種ではJFEライフ(東京都台東区)が兵庫県三田市、茨城県土浦市の2カ所で野菜工場を経営し、レタス類や水菜を生産する。
光源に高圧ナトリウムランプを使う、キユーピーのTSファーム。
Odakyu OXに工場野菜を卸しているラプランタ(東京都千代田区)は蛍光灯と反射板を使う水耕栽培「ラプランタ式栽培システム」を開発し、低電力で効率のよい野菜栽培に取り組んでいる。工場野菜への参入は、小売業やメーカーばかりではない。サービス分野では、東京ディズニーリゾートなどを運営するオリエンタルランド(千葉県浦安市)が、06年に発光ダイオード型の野菜工場を自社グループで建設して話題を集めた。
栽培した野菜をリゾート内のレストランで提供するサラダ類などに使う計画だ。
「出荷に向けて準備段階です」と同社の広報は語る。計画的に仕入れて計画的に販売できる工場野菜が注目されている理由を関係者はどう見ているのか。
キユーピーの清澤センター長は、(1)無農薬で徹底した衛生管理による高い安全性、(2)洗わずに使えることで加工時の作業効率が上がる利便性、(3)年間を通じての一定価格と安定供給――の3点を挙げる。
「消費者の安心・安全が支持につながっている」というキユーピーの清澤正彦植物開発センター長。
安全性については、食への不安が高まるなか、消費者の厳しい視線に耐え得る野菜であるという特性が受け入れられているとの見方が強い。「食中毒の原因と疑われたカイワレ大根の事件、一部の中国産野菜に見られた残留農薬などの問題を背景に、野菜の安全性が問われています。
『無農薬だから安全』という工場野菜の利点が、少しずつ家庭に浸透したのではないか」と清澤センター長は指摘する。実際、取引先に「TSファーム」での衛生管理の状態とトレーサビリティーを示し、さらなる信頼を得ることができたという。
Odakyu OXの栗原氏も、ここ数年、食品に対する安全志向の高まりを感じている。「世の中が安心、安全を求める方向に向かうとともに、工場野菜が認知され始めたように思います」(栗原氏)加えて、工場野菜は露地栽培のものより栄養価が高く、日持ちがするという第三者機関の分析結果もある。
光源には各社が工夫を凝らす。ラプランタの野菜工場では蛍光灯を利用している。
半面、野菜独特の苦味や歯ごたえ、後味に物足りなさを感じる人がいるのも事実であり、露地ものより価格が割高でもある。それでも年間を通じて一定の数量が売れるのは、やはり商品がもつ「安全性」に起因していると栗原氏は考える。
業務用の場合、安全性ばかりでなく「見た目」の印象も売れ行きを左右する。工場内で、自然界のさまざまな外敵から守られて育ってきた工場野菜は、傷が少なく、色と形がきれいだ。「レストランからは露地栽培の野菜を使うよりクレームが減ってきたという報告もあります」(清澤センター長)。
そんな現場の声にも人気上昇の秘密が潜んでいるようだ。そして、露地栽培との最も大きな違いが、年間を通じての「安定供給」と「一定価格」である。Odakyu OXの栗原氏は、「売り場での利益計画が成り立つことは、工場野菜を販売する大きな利点」と指摘する。
Odakyu OXでは、工場野菜は基本的に198円。並行して扱う露地もののレタスは当然、収穫量に応じて価格が変動する。冬場には1個298円まで上がることもあり、割安な工場野菜の販売数が増える。逆に夏場は露地ものが1個100円程度まで下がることもあるが品薄になることもあるため、198円の工場野菜も売れる。しかも納品まで2週間ほど見込んで発注しておけば、指定した日に、確実に欲しい数が入荷し、売り場の商品構成が安定する。この計画的な販売は、これまでの青果物の常識では考えられないものだ。
キユーピーの清澤センター長も、露地ものの野菜では実現できない工場野菜の一定価格に商機を見出す。「市場を経由しないので、露地ものの需要と供給の影響を受けないのです。小売店へ納める場合と、第一問屋のみを経由して小売店に納める場合の両方がありますが、一次価格は一定です。店頭価格198円の場合、納品価格は138~140円前後でしょうか」(清澤センター長)
小売店にとっては、季節や天候が変動しても仕入れ価格が変わらない工場野菜は貴重な存在だ。他の野菜の時価に応じて工場野菜の販売価格や発注量を調整し、売り場の成績を維持するという販売計画も可能になる。
また、加工食品に使用する場合も、仕入れ価格が同じなので、1個当たりの原価が大きく変わることがない。「確実に仕入れができて価格が一定だから、常に同じ利幅で売れる」(Odakyu OXの栗原氏)のは大きな魅力である。工場野菜は、さらなる品種改良や技術革新が進むことで、身近な野菜としてさらに普及しそうだ。

文・橋口義彦(ハリーフッド)
小田急商事(東京都世田谷区)が展開する高級スーパー「Odakyu OX経堂店」(同)の青果売り場。「フリンジグリーン」「ノーチップ」など、おしゃれな名称のみずみずしいレタスが並ぶ。露地栽培される昔ながらの丸いレタスではなく、ほうれん草のように葉が目立つ1つひとつが透明ビニールで梱包された工場野菜だ。
価格は1袋198円。季節にもよるが、露地栽培のレタスよりも2~3割は高い。それでも、熱心に品定めをする買い物客の手が伸びる。購入した28歳の主婦は「子供にも安心して食べさせることができるので、いつもビニールパックの野菜を買っています」と話す。

工場野菜は無農薬栽培され、売り場に並ぶまでの過程がはっきりと分かる。生産、加工、流通の各過程と移動した経路を把握するトレーサビリティーが、近年、食品の安全確保のために注目を集めている。工場野菜はトレーサビリティーに優れていることも安全性を重視する消費者にとって大きな魅力だ。
Odakyu OXの青果グループでバイヤー(商品買い付け担当)を務める栗原教好氏は「工場野菜は社会的に認知され始めたと感じています。青果売り場でも、お客様の間ですっかり定着しているという手応えがあります」と実感を語る。
「消費者の間に工場野菜はすっかり定着した」と売り場の感触を話すOdakyu OXの青果グループの栗原教好氏。2006年1月から本格的な販売を始めたところ、季節により若干の変動はあるものの、売り上げは順調に推移している。07年5月度の販売数量(全25店の合計)は8430個(リバーグリーン975個、ノーチップ2682個、フリンジグリーン4773個)で、販売金額は157万7549円。前年同期比約18%増を達成した。
「野菜全体におけるシェアはまだ1%にも達していませんが、安心で安全な野菜を求めるお客様からは積極的に支持されています」(栗原氏)
80年に栽培を開始したキユーピーが先駆け
露地栽培では自然の恵みを頼りに、土、水、太陽で育てるのに対して、工場野菜は土を使わず、人工の光のもとで計画的に生産される。肥料や水分、温度などをコンピューターで管理する野菜工場は低細菌状態に保たれ、農薬を使う必要性も少ない。このため安全性が高く、一定の品質を確保できる。光源には高圧ナトリウムランプ、発光ダイオード(LED)、蛍光灯などがある。栽培も発芽してからパレットに移植して育てる方法や、液肥を利用した水耕栽培など様々だ。
高級スーパーのOdakyu OXには、きれいにビニールパックされた野菜が並ぶ。工場野菜の分野で先駆的な企業といえばキユーピー(東京都渋谷区)だ。80年にイチゴやキュウリなどの自社生産を開始、84年には高圧ナトリウムランプを使った野菜生産に着手し、89年から収穫した野菜の販売を始めた。
開発の第一線で指揮にあたってきた植物開発センター長の清澤正彦氏は、「マヨネーズやドレッシングは、野菜があってこその商品です。その野菜を安定的に生産する方法はないだろうかと考え、80年から工場野菜の開発を進めてきました」と説明する。
同社の野菜工場「TSファーム」は福島県白河市と茨城県猿島郡五霞町に2つの直営工場があるほか、全国12カ所の工場に技術・生産ノウハウを提供している。
「TSファーム」の光景は圧巻だ。工場内には三角形のパネルが配置され、斜面に葉もの野菜の一種である「フリルアイス」「リーフレタス」「サラダ菜」などがぎっしりと植えられている。光源に高圧ナトリウムランプを使い、水分や酸素、肥料を与えるのに独自の噴霧水耕のノウハウを確立しているのが大きな特徴だ。また、生産する葉もの野菜は一見するとレタスのようだが、従来の品種よりミネラルなどの栄養価が高く、葉肉が厚くて加熱料理に適しているなど、品質に優れる。
工場野菜が高級スーパーで売り上げを着実に伸ばしている要因は、消費者の安全志向の高まりにあるが、それだけではない。供給者側にもメリットがあるのだ。工場野菜は季節や天候に左右されない安定供給と一定価格での仕入れが可能であり、流通業者や小売店にとって経営面での旨みがある。
工場野菜の納入先は高級スーパーだけではない。レストランのサラダバー、サンドイッチや惣菜のサラダ巻きなどに加工される業務用野菜としても需要が伸びている。土を使わないため、十分に洗わなくても使える利便性が、レストランや加工業者から支持される理由の1つとなっている。
「例えばサンドイッチに使うレタス。洗浄して水切りをするには手間と時間がかかるうえ、余分な水分があると、サンドイッチの品質を落とすことになりかねません。工場野菜なそんな心配なく作業効率が上がり、品質も保てます。また、見た目がきれいなのでオードブルの添え物としても利用されています」と清澤センター長は業務用の需要拡大の背景を語る。
就労の場としても可能性が広がる
野菜工場は農村部で新たな就労の機会を作り出している。98年から稼働したキユーピー直営工場の「TSファーム白河」では約15人の従業員が働く。毎日約4500株の野菜を収穫しており、農業の経験がなくても勤められる新しい職場として、地域で認知され始めている。
寒冷地の農業にも新たな可能性を生み出した。キユーピーのノウハウを導入して野菜を生産する松代ハイテクファーム(新潟県松代市)は94年、廃校になった小学校を再利用して誕生した。豪雪地帯にもかかわらず、年間を通じて1日に約700株を収穫している。
このキユーピーの成功モデルに対し、後発の各企業も意気盛んだ。アグリビジネス市場でシェアの大部分を占めるのは食品・飲料系の企業で、他には99年に本格参入したカゴメ(名古屋市中区)が有名。異業種ではJFEライフ(東京都台東区)が兵庫県三田市、茨城県土浦市の2カ所で野菜工場を経営し、レタス類や水菜を生産する。
光源に高圧ナトリウムランプを使う、キユーピーのTSファーム。Odakyu OXに工場野菜を卸しているラプランタ(東京都千代田区)は蛍光灯と反射板を使う水耕栽培「ラプランタ式栽培システム」を開発し、低電力で効率のよい野菜栽培に取り組んでいる。工場野菜への参入は、小売業やメーカーばかりではない。サービス分野では、東京ディズニーリゾートなどを運営するオリエンタルランド(千葉県浦安市)が、06年に発光ダイオード型の野菜工場を自社グループで建設して話題を集めた。
栽培した野菜をリゾート内のレストランで提供するサラダ類などに使う計画だ。
「出荷に向けて準備段階です」と同社の広報は語る。計画的に仕入れて計画的に販売できる工場野菜が注目されている理由を関係者はどう見ているのか。
キユーピーの清澤センター長は、(1)無農薬で徹底した衛生管理による高い安全性、(2)洗わずに使えることで加工時の作業効率が上がる利便性、(3)年間を通じての一定価格と安定供給――の3点を挙げる。
「消費者の安心・安全が支持につながっている」というキユーピーの清澤正彦植物開発センター長。安全性については、食への不安が高まるなか、消費者の厳しい視線に耐え得る野菜であるという特性が受け入れられているとの見方が強い。「食中毒の原因と疑われたカイワレ大根の事件、一部の中国産野菜に見られた残留農薬などの問題を背景に、野菜の安全性が問われています。
『無農薬だから安全』という工場野菜の利点が、少しずつ家庭に浸透したのではないか」と清澤センター長は指摘する。実際、取引先に「TSファーム」での衛生管理の状態とトレーサビリティーを示し、さらなる信頼を得ることができたという。
Odakyu OXの栗原氏も、ここ数年、食品に対する安全志向の高まりを感じている。「世の中が安心、安全を求める方向に向かうとともに、工場野菜が認知され始めたように思います」(栗原氏)加えて、工場野菜は露地栽培のものより栄養価が高く、日持ちがするという第三者機関の分析結果もある。
光源には各社が工夫を凝らす。ラプランタの野菜工場では蛍光灯を利用している。半面、野菜独特の苦味や歯ごたえ、後味に物足りなさを感じる人がいるのも事実であり、露地ものより価格が割高でもある。それでも年間を通じて一定の数量が売れるのは、やはり商品がもつ「安全性」に起因していると栗原氏は考える。
業務用の場合、安全性ばかりでなく「見た目」の印象も売れ行きを左右する。工場内で、自然界のさまざまな外敵から守られて育ってきた工場野菜は、傷が少なく、色と形がきれいだ。「レストランからは露地栽培の野菜を使うよりクレームが減ってきたという報告もあります」(清澤センター長)。
そんな現場の声にも人気上昇の秘密が潜んでいるようだ。そして、露地栽培との最も大きな違いが、年間を通じての「安定供給」と「一定価格」である。Odakyu OXの栗原氏は、「売り場での利益計画が成り立つことは、工場野菜を販売する大きな利点」と指摘する。
Odakyu OXでは、工場野菜は基本的に198円。並行して扱う露地もののレタスは当然、収穫量に応じて価格が変動する。冬場には1個298円まで上がることもあり、割安な工場野菜の販売数が増える。逆に夏場は露地ものが1個100円程度まで下がることもあるが品薄になることもあるため、198円の工場野菜も売れる。しかも納品まで2週間ほど見込んで発注しておけば、指定した日に、確実に欲しい数が入荷し、売り場の商品構成が安定する。この計画的な販売は、これまでの青果物の常識では考えられないものだ。
キユーピーの清澤センター長も、露地ものの野菜では実現できない工場野菜の一定価格に商機を見出す。「市場を経由しないので、露地ものの需要と供給の影響を受けないのです。小売店へ納める場合と、第一問屋のみを経由して小売店に納める場合の両方がありますが、一次価格は一定です。店頭価格198円の場合、納品価格は138~140円前後でしょうか」(清澤センター長)
小売店にとっては、季節や天候が変動しても仕入れ価格が変わらない工場野菜は貴重な存在だ。他の野菜の時価に応じて工場野菜の販売価格や発注量を調整し、売り場の成績を維持するという販売計画も可能になる。
また、加工食品に使用する場合も、仕入れ価格が同じなので、1個当たりの原価が大きく変わることがない。「確実に仕入れができて価格が一定だから、常に同じ利幅で売れる」(Odakyu OXの栗原氏)のは大きな魅力である。工場野菜は、さらなる品種改良や技術革新が進むことで、身近な野菜としてさらに普及しそうだ。

文・橋口義彦(ハリーフッド)



